KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.26 「わらすば」が原点。その子の世界をひろげたい。

2022年5月20日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

 

 

「わらすば」が原点。
その子の世界をひろげたい。

 

 

vol.26  管野 あこ(かんの あこ) 22歳

 

 

海外留学で世界がひろがった経験を糧に。

 

 

「その子のいろいろな世界をひろげられるような教師になりたい」

 

 

そう語るのは、北上市で子ども食堂、小学生の放課後預かり、不登校の高校生のサポート、フリースクールなどの取り組みを行っているNPO法人「わらすば」のスタッフ・管野あこさんです。

 

 

 

 

同法人は「みんなちがって、みんないい」をモットーに、「仲間を作り」「人を認め」「人を排除しない」みんなの居場所をつくろうと、2020(令和2)年6月から活動をスタート。

 

 

保育士や幼稚園の先生をめざし、保育の短大に通っていたあこさんは、「わらすば」のスタート時からボランティアでその活動に参加していましたが、短大の卒業を機に2021(令和3)年4月から正式なスタッフとして同法人の取り組みを支えています。

 

 

 

▲空き家を活用し、2020(令和2)年6月から活動をスタートした「わらすば」。

 

そんなあこさんと「わらすば」との出会いは……。

 

 

「私が高校でお世話になったのが大内先生(=大内玲子さんはNPO法人「わらすば」代表。以前は情報処理を教える高校教師)だったんです。

 

 

私は高1の冬にカナダに留学したのですが、それも大内先生が勧めてくれて、それで私の高校生活が180度変わりました」

 

 

笑顔でそう語るあこさん。大内代表も当時を楽しそうに振り返ります。

 

 

▲高校時代の恩師でもある大内代表とあこさん。

 

 

「当時の彼女は内向的で、世の中を知らないな、という印象でした。

 

 

私は子どもたちにはいろんなことを経験してほしいと思っています。ですから、彼女の場合は英語が好きだったので、留学したら変わるんじゃないかと思ったら、“変わる”どころか“激変”して帰ってきました(笑)

 

 

内向的だったのが外向的になって、自分でなんでもやってみるという前向きなタイプに変わったんです」

 

 

以来、2人の交流は高校卒業後も続き、大内代表が「わらすば」をはじめる際も、あこさんは「お手伝いしたい」と思ったそう。

 

 

そして、「わらすば」の取り組みを通して子どもたちと関わっていくうちに、高校の英語の先生になることが、あこさんの新しい夢になりました。

 

 

▲2階建ての建物のなかにはさまざまな部屋があり、平日の午前中は中高生が静かに勉強し、午後になると小学生が集まり、にぎやかに。特に土曜日は建物全体を使って遊ぶ子どもたちの元気な姿が見られるそう。

 

▲お母さんも利用可能な「子ども食堂」は毎週土曜日に開催。帰りが遅いお父さんのためにテイクアウトの弁当も用意していますが、最近はコロナの影響で中止に……。ちなみに料理の材料やおやつのお菓子などは、「わらすば」の取り組みを応援する企業や団体からの寄付で賄っています。

 

 

その子の気持ちに寄り添いながら。

 

 

「子どもの“全力”を見られるのが楽しいですね」

 

 

「わらすば」での毎日を、あこさんはそう語ります。

 

 

▲子どもが大好きなあこさんは、短大で保育士と幼稚園の先生の資格も取得。

 

 

現在、「わらすば」に登録している子どもたちは30名以上。平日は小学生から高校生が中心ですが、土曜日になると小学生未満も多く、ときには1歳の子どもを預かることも。

 

 

そうした子どもたちが2階建ての建物の空間をフル活用して、「鬼ごっこ」に「かくれんぼ」、「だるまさんが転んだ」などの遊びに夢中になります。あこさんはじめ5人のスタッフも子どもたちと一緒に本気で遊ぶため、子どもたちの“全力”が間近で見られて楽しいそう。

 

 

▲子どもたちと遊ぶあこさん。

 

 

そんなあこさんが、子どもたちと接するうえで大切にしているのが「距離感」。

 

 

「『わらすば』を利用する子どもたちは、ひとり親家庭だったり、ちょっと発達障がいがあったり、中学生や高校生では不登校の子もいたりして、ひとりひとり違った事情を抱えています。

 

 

ですから、最初はヒトと距離を置く子もいるのですが、この場所もみんなのことも嫌いになってほしくないので、その子のペースで心を開いてもらえるように、焦らずに、でも遊びに来てくれたら“ひと声”かけて、少しずつ少しずつ距離を縮めていくようにしています。

 

 

実際に『この場所で何かひとつでも楽しいことを見つけてほしい』という想いで子どもたちと関わっていると、最初は距離を置いていた子もみんな少しずつ心を開いてくれるので、そういう変化がすごくうれしいですし、やりがいにもなっています」

 

 

▲「わらすば」で過ごす子どもたち。

 

 

そう語るあこさんですが、“ひと声”かけるという心遣いの大切さも高校時代のカナダ留学で学びました。

 

 

「カナダにはいろんな人種の方がいらっしゃるのですが、みなさん誰にでもフレンドリーに接してくれるんです。

 

 

それは友達や知り合いだけではなくて、例えばスーパーの定員さんでも『いらっしゃいませ』だけでなく、『元気ですか?』というような声をいつもかけてくれます。それがすごく自然なんです。

 

 

私は英語は好きですけど上手には話せなくて、でもそうして声をかけてもらえるとやっぱり私もうれしくて、英会話は上手ではないけどきちんと答えきゃと思って、知っている単語を並べたり身振り手振りを交えたりしながら一生懸命気持ちを伝えようとするんですよね。

 

 

がんばってそれをやっていたら性格も変わったみたいで、留学から帰ってきたら友達からも『おかしくなった』と言われるほどでした(笑)

 

 

私は留学に行く前はヒトに興味がなかったのですが、誰も知り合いのいない海外に行ってみてヒトとのつながりが大事だと改めて感じることができたのは良かったと思います」

 

 

その経験が「わらすば」での子どもたちへの接し方にも生かされ、少しずつ子どもたちと信頼関係を築いていける喜びが、あこさんのやりがいになっているのでした。そして、それが新しい夢へとつながっていきます。

 

 

子どもたちの“全力”をチカラに。

 

 

「自分が高校生のときもそうだったんですけど、高校生って見ている世界が狭いと思うんですよ。ここに来る高校生たちも自分が見ている狭い世界のなかに閉じこもっている子が多いように感じます。

 

 

ですから私も『わらすば』の活動のなかで、そういう高校生たちに『もっと世界はひろいんだよ』ということを伝えてあげたいと思って取り組んでいるのですが、高校の先生になったら、もっとたくさんの高校生たちに『もっと世界はひろいんだよ』ということを伝えてあげられるんじゃないかと思ったんです。

 

 

英語は私も好きですし、カナダに留学してヒトとのつながりの大切さを学んで私自身も変わることができたので、『わらすば』で子どもたちと接しているうちに、高校の英語の先生になりたいと思うようになりました」

 

 

そう語るあこさんは、現在「わらすば」で働く以外にペットショップでもアルバイトしながら、通信制の大学を受講し、高校の英語の先生の資格を取ろうとがんばっています。そのモチベーションはどこから来るのでしょうか。

 

 

 

 

「私はヒトと関わることがすごく楽しいですし、子どもたちも大好きなんです。

 

 

ですから、『わらすば』に来てくれる子どもたちといっしょに遊ぶだけでも楽しいですし、そういう子どもたちがちょっと前までできなかったことができるようになったらうれしいですし、今まで距離を置いていた子が私に何か打ち明けてくれるようになったり、そうした子が本当に“全力”で楽しそうに遊んでいる様子を見られたり、中高生で言えばここに来てくれるだけでも大きな一歩だと思うし、そういう姿を見ているだけでも私は元気がもらえるんですよね」

 

 

「わらすば」の子どもたちの“全力”をチカラに変えて、新しい夢をめざすあこさん。その眼差しは、子どもたちの開かれた未来に向けられています。

 

 

▲大内先生(代表)のように、勉強だけでなく何でも自由にやらせる先生になりたいと語るあこさん。

 

 

▲「わらすば」のみんなと。

 

 

管野あこさんが働く職場:NPO法人 わらすば
岩手県北上市大堤南一丁目 1-8
Tel/090-6456-7125