KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.25 箱根駅伝、実業団……。その経験をいつか地域に。

2022年3月30日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

箱根駅伝、実業団……。
その経験をいつか地域に。

vol.25　佐藤慎巴（さとうしんば）　22歳

夢はプロバスケット選手。そして、いつかは……。

「負けたことがある」というのがいつか大きな財産になる……。

慎巴（しんば）さんは大好きなバスケット漫画に登場するこの言葉を、中学のときからずっと大切にしています。そんな慎巴さんがバスケットをはじめたのは小学1年のとき。しかもすぐ夢中になると、プロバスケット選手になることが夢に。

「子どもの頃は店のなかでもバスケットボールをついてドリブルの練習をしたりしながら過ごしていました」

そう語る慎巴さんの実家は、北上市に1925（大正14）年に創業した「和賀スポーツ・佐助酒店」です。今から97年前、初代が「佐助酒店」を開き、2代目がこの地域にスポーツ店がなかったためスポーツをやりたいヒトの役に立てればとスポーツ店も開業。以来、ワンフロアでスポーツ用品とお酒を扱うお店として地域で長く愛されています。

お店と自宅が壁1枚でつながる暮らし……。それが当たり前だった慎巴さんは、お店も生活の一部であり、家族が働いているお店で、お手伝いするわけでも何をするわけでもないのに、バスケットボールをついたりしながら眺める風景が日常でした。

「いつかこの店を継ぐ」

バスケットに夢中だった頃から、慎巴さんは自然とそう思うようになっていたそう。

一方でバスケットの努力も報われ、中学2年の県の新人戦で優勝。さらにジュニアオールスターの県代表にも選ばれ、主将となって臨んだ中学3年の県総体で優勝も果たすなど素晴らしい成績を残します。

しかし、目標だった全中（全国中学校バスケットボール大会）には出場できず、進学の際も県の強豪校から声をかけられましたが、高校で戦うには身長の問題もあり別の道を選択。

それが、陸上でした。

▲慎巴さんの実家は北上市で創業97年の歴史を刻む「和賀スポーツ・佐助酒店」。慎巴さんも子どもの頃から重い荷物を運んだりして手伝っていたそう。

ケガで苦しんだ高校時代。その悔しさを……。

慎巴さんは中学に入るとバスケットの他に「陸上」もはじめます。といっても、あくまで体力づくりが目的でした。

がしかし、その陸上でも将来のオリンピック選手の育成を目的としたジュニアオリンピックに3年連続出場。中1で1500mが3位、中３で3000mが2位になるなど輝かしい成績を残します。

「陸上は好きじゃなかったのですが、中2のときに都道府県駅伝の代表に選ばれて走ったんです。そのときみなさんからの応援がすごくうれしくて、陸上もいいなと思うようになりました。

それにバスケではがんばっても県選抜で、県で優勝はできても全中には行けませんでした。でも、陸上では全国の上のレベルで戦うことができたのは自信になりました」

だからこそせっかく行くなら「強豪で」と、お姉さんも進学しており、最初に声もかけてくれた駅伝強豪校・埼玉栄高校に進学します。

体力づくりが目的だった「陸上」に専念したら、どれだけ上にいけるのか……。いずれは実業団から日本代表へ……。慎巴さんはそんな夢も抱いて高校生活をはじめます。がしかし、入学してすぐ疲労骨折。その後もケガに悩まされ、万全でスタートラインに立てるまでおよそ1年半かかりました。

度重なるケガで思うように走れない日々。嫌になることも……。

「それはなかったです。むしろこのまま終わる方が嫌だったので、走れなくてもトレーニングはがんばっていました。結果を出さなきゃ、バスケを続けている友達に顔向けできないという思いもありましたし……」

その言葉通り、慎巴さんはケガを乗り越え高校3年のときに1500mでインターハイに出場。さらに全国高校駅伝にも出場します。が、入賞をめざしたチームは15位に。

この悔しさを箱根駅伝で。

慎巴さんは新たな目標を掲げ、お母さんやおばあちゃんも学んだ日本体育大学に進学。すると高校時代とは一転、入学時からケガもなく大学のハイレベルな練習にもついていくことができたそう。さらに2年目の夏合宿ではAチームに選抜され、秋の箱根駅伝予選会もメンバー入り。

そして、さらなる成長を見据えた3年目に新型コロナウイルスが発生。キャンパスにも入れなくなった部員たちは帰省する他なく、慎巴さんも寮から実家に戻りますが、「陸上はどこでも走れるし、練習も工夫次第」と前向きに捉え、お店を手伝いながら一人練習に励みます。

しかし、コロナが落ち着き大学に戻ると……。

春から実業団へ。その経験をいつか地域へ。

実業団入りをめざしていた慎巴さんは、コロナで大会が次々に延期や中止になると実業団へアピールする機会も失われ、それが焦りに。タイムも伸び悩み、箱根駅伝予選会、全日本大学駅伝、箱根駅伝とすべて補欠に回り、悔しい3年目を終えます。

そして、実業団からのスカウトもないまま迎えた大学4年目。慎巴さんは「実業団から日本代表へ」という夢に区切りをつけ、目標を箱根駅伝一本に絞り、それを「やり切って競技生活を終えよう」と決意。さらに……。

「大学を卒業したら店を継ごうと思っていました」

そう決めると伸び悩んでいたタイムも、1500mで自己ベストを更新するなど好転。しかも大学最後の夏合宿では、諦めていた実業団の「セキノ興産」からスカウトも。

「今も店を継ぐ気持ちは変わりません。でも、セキノ興産の方からは自分のスピードが魅力だと言っていただいて、自分の特徴に合ったメニューをつくってくださるということでした。高校、大学と陸上をやってきましたが、そう言っていただいたのは初めてで、自分の持ち味であるスピードを生かした陸上を追求してみたいと思ったんです」

お母さんとは何度も話し合い、「やれるまでやってから帰ってきなさい」と背中を押された慎巴さん。再び夢に向かって気持ちを切り替えると、最後の箱根駅伝では補欠に回るという悔しい立場に立たされますが、それでも「For the TEAM」の精神でチームを支えます。

すると本番前日に10区を走ることが決定。迎えた本番では19番目に襷をもらい、順位を2つあげフィニッシュテープを切りました。