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【市民ライター投稿記事】かやぶき屋根に思いを馳せて・旧菅野家住宅

2021年12月23日

市民ライター 橋本 朋子

こんにちは、市民ライターの橋本朋子です。
生まれも北上、育ちもほぼ北上の私が今回書いてみたいなと思ったのは
立花にあるみちのく民俗村や、樺山遺跡の竪穴式住居などで見られるかやぶき屋根についてです。

 

 

みちのく民俗村 かやぶき屋根

 

 

樺山遺跡 かやぶき屋根

 

 

みちのく民俗村は、約7万平方メートルの丘陵全体が竪穴式住居から武家屋敷、商家、南部曲り家などの歴史的建造物の展示場となっていて、毎年多くの方が訪れます。

 

 

みちのく民俗村の様子

 

 

みちのく民俗村 「花嫁道中」の様子

 

 

みちのく民俗村 古民家内の様子

 

 

四季を感じる草花や、畑や田んぼ。タイムスリップしたかのような日本の原風景に浸れる人気のスポット。桜も見事ですし、新緑もまたさわやか。秋の紅葉も見逃せません。そして雪国の醍醐味のひとつ、雪灯り。寒さも忘れるほど幻想的です。

 

 

 

みちのく民俗村 「雪灯り」の様子1

 

 

みちのく民俗村 「雪灯り」の様子2

 

 

その中に国指定の重要文化財・旧菅野家住宅があります。
この住宅の屋根のふき替え、修復、移設のお話を黒岩にあります株式会社小菅工務店の代表取締役、小菅 誠(こすが まこと)さんに伺いました。

 

 

株式会社小菅工務店 代表取締役 小菅誠さん

 

 

小菅工務店さんでは通常業務の他に、特殊なお仕事も請け負っています。それが重要文化財などの移築や修復。

 

二年ほど前には稲瀬町にある市民のパワースポット、樺山遺跡の竪穴式住居を、市からの依頼で一棟建て直したそうです。

 

雨漏りなどで劣化し、倒壊してしまったものを新築しました。
「古いものを新築した」という少し混乱しそうなところが面白いですね。

 

 

樺山遺跡 竪穴式住居建て直しの様子

 

ドローンで撮影した樺山遺跡の様子

 

御所野遺跡の様子

 

 

一戸町の御所野遺跡を視察した際のお話も伺いました。

 

御所野遺跡と言えば7月に世界遺産に登録されましたね。
こちらの竪穴式住居は土壁で、芝生が生えたようになっています。
対して、樺山遺跡の住居はかやぶきであり、画像を見比べると違いがよくわかるかと思います。

 

 

 

樺山遺跡の様子

 

 

御所野遺跡の様子

 

 

 

この御所野遺跡では20年前に竪穴式住居を修復する際、焼け跡の痕跡が見つかったそうです。その焼け跡に焦げた土が残っていたことから、これはまちがいなく土壁の住居だったとし、土壁で修復(壁に草を生やして)するに至ったそうです。

 

 

現在の御所野遺跡の場所は北上より北で気温も低いのですが、このように住居が土壁であったという事実は、大昔は今よりずっと温暖な気候だったのではないかという考察にも繋がるそうです。

 

 

さて、かやぶき屋根のほうに話を戻しましょう。
五十年ほど前から北上市の要請で古民家の移築、修復に携わっている小菅工務店さん。黒岩地区、平沢の小高い丘(丘というよりすでに小さい山かも)の上にある会社です。会社のキャッチフレーズは「里山にある古くて新しい工務店」です。
新しい住宅から古民家の修復まで手掛けます!といったところでしょうか。

 

 

昔は屋根のふき替えといえば、口内や黒岩などでは、地域の皆さんで協力しながら行っていたとのこと。

 

 

黒沢尻一帯でもきっとそのような光景があちらこちらで見られたことでしょう。

 

 

小菅さんがかやぶき屋根のふき替えに立ち会いはじめたのは30年ほど前の若かりし頃。作業を始めようとすると近所のおじさんおばさんが集ってきて、なんの指示を受けることもなく、サクサクと作業が進められていったそうです。少し戸惑いながら作業する小菅青年の様子が想像できます。

 

 

当時は茅を刈り取って干し、ためておいたものを使って屋根のふき替えをしていたそうですが、現在は茅よりも太くて耐久性のある「葦」を使うそうです。

 

 

 

干されている葦

 

 

作業の様子

 

 

現在は職人さんが激減しており、ふき替えの際は、宮城県、秋田県の横手市、県内では遠野市など三県に跨った職人さんの混合チームで作業にあたるそうです。

 

「チームかやぶきジャパン」と命名したくなります。

 

みちのく民俗村にある古民家の修復はこのような方々によって支えられている訳です。
民俗村の家屋の修復は順番に行われているため、どこかしら直している建物に遭遇できるかもしれませんね。

 

 

みちのく民俗村 古民家修復の様子

 

 

さて、みちのく民俗村にある旧・菅野家。
岩手県の現存する古民家では最古のもののようです。
母屋が建てられたのは享保13年(1728年)
手前にある薬医門(享保5年・1720年築)とともに国の重要文化財に指定されています。

 

 

みちのく民俗村 薬医門

 

 

口内町で実際に住居として使われていたこの家屋が民俗村に移設されたのは昭和47年(1972年)です。民俗村への移設・復元家屋、第一棟目となります。

 

 

みちのく民俗村にある旧・菅野家

 

 

移設の際は、柱や梁をバラバラにして、それぞれに番号を付けるそうです。当時はもちろんコンクリートの基礎がある訳ではないので、ゴロゴロとした石にも番号を付けて記録します。この石の順番をまちがうと柱と合わなくなるので大変です。

 

 

当時の記録について、「重要文化財旧菅野家住宅修理報告書」なるものを見せて頂きました。
事細かな記録が載っており、私のような素人が目にすると気が遠くなります。

 

 

「重要文化財旧菅野家住宅修理報告書」

 

 

もともとの建物を再現していくには、時代を経て変化してしまっている部分もあるので、大学の先生のお話しを聞いたり、考察したりという苦労も。

 

もちろんここでもチームかやぶきジャパンは大活躍です。頼もしい限り。

 

 

作業の様子

 

 

このように多くの人々の手によって歴史的建造物が再現、保存されているわけです。

 

もちろん各地に似たような施設はあるかと思いますが、小菅さん曰く、みちのく民俗村のように一か所に数多く集められている場所は全国的にもとても珍しいとのこと。そしてそれは無料で見ることができます。北上市、太っ腹ですね!

 

こうした分野では職人さんが激減しているという課題もありますが、少し明るい兆しも。
近年、このような職人技に興味を抱き、挑戦する若者が出てきているほか、海外の方が日本に学びに訪れているそうです。

 

かやぶき屋根の修復をする外国人の姿が北上で見られる日が来るかもしれませんね。

 

子供のころから慣れ親しんだ場所、みちのく民俗村ですが、小菅さんのお話を聞いていくうちに北上市の宝といっても良い場所なんだなという気持ちが芽生えました。
民俗村やそこにある古民家は子供の頃にはあまりにも身近でしたが、今回のお話しの数々はこれらに対する思いが大きく変わるきっかけになりました。

 

このような素晴らしい場所に、地元の子どもたちにももっと足を運んでもらい、楽しみ、親しみを持ちながら学び、地域の歴史に触れてほしいです。
皆さんもこの四季折々に美しく、素朴でありながらも深く私たちを包み込んでくれる場所へタイムスリップしに是非行ってみてください。そしてその良さを感じてください。

 

小菅社長、お忙しい中お話を聞かせてくださってありがとうございました。