KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.17 “今”だからこそ。 “祈り”を込めて、兄弟で舞う鬼剣舞。

2021年7月26日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

 

 

 “今”だからこそ。
“祈り”を込めて、兄弟で舞う鬼剣舞。

 

~vol.17 老林 優希(おいばやし ゆうき) 25歳 / 老林 慶悟(おいばやし けいご) 20歳~

 

 

父の踊る姿に、心躍らせて。

 

 

こういうときだからこそ、“鬼剣舞”があるんじゃないか……。

 

 

コロナ禍の今、北上市で鬼剣舞を踊るヒトたちが口を揃えて言うのが、そんな言葉だそう。

 

 

それを教えてくれたのが、気づいたら子どものときから鬼剣舞を踊っていたという老林優希さんと慶悟さんの兄弟。2人にとって鬼剣舞は、憧れの象徴です。

 

 

「私にとっての原点は、『北上・みちのく芸能まつり』で毎年父が鬼剣舞を踊っているのを見ては、まねっこをしていた記憶。小さかったので衣装も『高いからダメ』と言われて買ってもらえなくて(笑)、でもそれっぽい恰好をして父親たちが踊る隅っこで、早く私も大人になって一緒に踊りたいと思いながら踊りのまねっこをしていました」

 

 

兄の優希さんがそう語れば、弟の慶悟さんも……。

 

 

「父が鬼剣舞のリーダーがかぶる白面(しろめん)をつけて踊っていたんですよ。それがやっぱりかっこよくて、気づいたら私も踊っていました」

 

 

▲上段が子どもの頃の写真。左が優希さんで右が慶悟さん。下段も左が優希さん、右が慶悟さん。

 

 

▲2人の父であり、師匠でもある相去鬼剣舞の庭元の若かりし頃。

 

 

毎年8月の最初の週末に北上市で3日間にわたって開催される『北上・みちのく芸能まつり』は、県内外から100を超える民俗芸能が集結。
街のアチコチでさまざまな民俗芸能が披露され、観客も一緒に楽しむという、民俗芸能の宝庫と言われる北上市ならではの祭りです。

 

 

そして、その中でもひと際人気を集める「鬼剣舞」は、北上市を中心に県内外から多くの団体が参加。特に2日目の夜におよそ200人の踊り手がいっせいに舞う「鬼剣舞大群舞」は、勇壮に舞う鬼たちがかがり火の灯りに照らされ、さらに荘厳さも増して観るヒトを幽玄の世界へと誘います。

 

 

その舞台で白面をつけて力強く舞う父の姿に憧れ、気づけば鬼剣舞の踊り手となった優希さんと慶悟さん。2人にとっても『北上・みちのく芸能まつり』は特別な舞台となりました。

 

 

しかし、その祭りも昨年はコロナで中止に。2人にとってそれはとても辛いことかと思いきや……。

 

 

▲優希さんは地元・北上翔南高校鬼剣舞部出身。高校時代は文化部のインターハイと言われる全国高等学校総合文化祭に出場。その踊りが認められ、文部科学大臣賞を受賞するなど活躍。現在は“鬼”をテーマにした東北 で唯一の博物館「北上市立鬼の館」に勤めながら、 “鬼剣舞”の今後の在り方を模索中。

 

 

▲慶悟さんも北上翔南高校鬼剣舞部出身で、同じく全国高等学校総合文化祭に出場し、文化庁長官賞を受賞するなど活躍。現在は県内の大学に通っていますが、卒業後も地元に残り、鬼剣舞を続けていく決意。

 

 

 

“踊る”とは? コロナが教えてくれたこと。

 

 

「コロナになったからこそ、わかったことがあるんですよ」
そう語り出したのは、弟の慶悟さん。

 

 

「去年はコロナの影響で、人前で踊る公演活動はできませんでした。それはやっぱり寂しいことではあるのですが、でも地域の神社やお寺に集まって踊る機会は結構あって……。もともと鬼剣舞は悪霊退散や五穀豊穣を祈って神社やお寺に踊りを奉納していたわけですが、そういうことを知識としては知っていても今ほどその大切さを実感したことはありませんでした。

 

 

もちろんたくさんの方に観ていただくことも大事なことです。でも、たとえお客さんに観てもらえなくても地域を思って“祈り”を込めて踊り続けることが大切で、そういう鬼剣舞だからこそこの地域に大事に受け継がれてきたのだと改めて思いましたし、私自身これからもずっと踊り続けて鬼剣舞を伝えていきたいと思った1年でした」

 

 

 

▲約1300年前にはじまったとされる鬼剣舞は、地元の神社やお寺など各所をめぐり、悪霊退散や五穀豊穣を祈って大地を踏みしめ清める踊り。

 

 

その言葉に深くうなずく優希さん。想いは兄弟一緒で、小さいときからやってきた鬼剣舞と現在も真摯に向き合う2人は、今まで辞めたいと思ったことももちろん……。

 

 

「正直……、あります(笑)」と優希さん。
「何回もあります(笑)」と慶悟さん。

 

 

それもやっぱり2人とも同じ。父は地元の相去鬼剣舞保存会の白面を任され、現在は同保存会の庭元(会のトップ・指導者)。母も鬼剣舞発祥の地と言われる岩崎地区出身で、小学校のときに鬼剣舞を習い、神楽を踊り、現在は相去鬼剣舞の笛方を務めるなど、民俗芸能を深~く愛する両親の下で育った子どもたちは……。

 

 

「父は相去鬼剣舞を教える“師匠”ということもあって、母もすごく鬼剣舞に対しては厳しいんですよ。たとえば子どものときって、ちょっと疲れていたりすると手を抜いて踊ってしまうことがあるじゃないですか。そういうときに母から『お前はお父さんに恥をかかせたいのか』と怒られたりして……。そういうのって『面倒臭いな』って思うじゃないですか(笑)」と慶悟さん。

 

 

その言葉にも深~くうなずく優希さんは、さらに “師匠”と衝突することも……。

 

 

▲2人が所属する相去鬼剣舞保存会の練習風景。メンバーはおよそ20名。ジュニアを加えると50名に! 練習は週イチで行われているそうですが、この日はコロナの影響でおよそ1ヵ月ぶりの再開。

 

 

▲メンバーには地元の小学生やエルサルバドルからやってきた英会話教室の先生も。

 

 

▲練習を終えて、メンバーと。

 

 

“衝突”を乗り越えて。“感謝”を込めて踊る鬼剣舞。

 

 

「踊りを知れば知るほど『もっとこうしたら動きがよくなるんじゃないか』と自分でも研究して試すようになるんですよ。

 

 

でも伝統を重んじるのが民俗芸能で、鬼剣舞にも団体ごとに『型』というものがあって、父も相去鬼剣舞の師匠として『この踊りはこうで、お前のやっていることは違う』と否定されるわけです。

 

そこで私も納得できなくて、『師匠は遅れている』『いや、お前がやっていることは違う』と衝突することが何度かあって、そのたびに嫌になって辞めたいと思ったことがありました。

 

 

でも、鬼剣舞は8人一組で踊るもので、そのうちの一人でも自分勝手に違う踊りをしていたら……。

 

 

『そんな“我がまま”は許されないんだよ』と師匠に言われて『確かに自分がやっていることは“我がまま”だよな』と自分でも気づくことができたんです」と語る優希さん。

 

 

▲2人が得意とする「二人加護」の練習風景。この演目は父であり“師匠”でもある相去鬼剣舞の庭元もかつて兄弟で踊っていた、父子相伝の踊りだそう。

 

 

現在、北上市には13の鬼剣舞団体がありますが、それぞれの団体で守り受け継がれている伝統があり、衣装はもちろん、同じ演目でも踊りの動きや所作、お囃子(太鼓や笛など)の曲調などにも微妙な違いがあるそう。

 

 

“師匠”が『型』にこだわるのも、そこにこそ他団体とは違う“相去鬼剣舞”ならではの“踊り”があり、“誇り”があるからでしょう。“衝突”を繰り返して見えてきた相去鬼剣舞の踊りに、優希さんももう迷いはありません。

 

 

 

 

さて、今年の『北上・みちのく芸能まつり』は8月7日(土)8日(日)の2日間。残念ながらコロナの影響で規模を縮小してとはなりますが、昨年はコロナで中止となったため2年ぶりの開催。しかも記念すべき60回目のメモリアルイヤーということで、2人も今からワクワクしています。

 

 

 

 

 

コロナ禍の今、改めて鬼剣舞を踊る意味を見つめ直した2人は、伝統を守り伝え続けてきた先人たちへの“感謝”とともに、“祈り”を込めて8月の舞台へ。『北上・みちのく芸能まつり』を、どうぞ、お楽しみに。

 

 

 

 

 

 

◇『北上・みちのく芸能まつり』の詳細はこちら

 

◇老林 優希さんと慶悟さんが所属する団体:相去鬼剣舞保存会

岩手県北上市相去町
Tel/090-7524-8696
Mail/oiba3@ezweb.ne.jp

 

 

◇老林 優希さんが勤める博物館:北上市鬼の館

 

岩手県北上市和賀町岩崎16-131
Tel/0197-73-8488