KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.76 すべての人間は芸術家である。 その言葉を胸に。

2026年7月1日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

 

 

すべての人間は芸術家である。

その言葉を胸に。

 

 

vol. 76 河原田 倖芽(かわはらだ こうめ) 23歳

 

 

 

北上市に移住、社会人2年目で個展を開催。

 

 

JR北上駅西口の前にあるビルの5階に、開館から26年目を迎えた「諄子(じゅんこ)美術館」があります。岩手県にゆかりのあるアーティストを中心にさまざまな個展を企画・開催している同美術館で、5月2日から6月6日まで「into」と題した個展を開催したのが、北上市に移住して2年目の河原田倖芽(こうめ)さんです。

 

 

▲「諄子美術館」で開催された個展「into」の様子。

 

 

「北海道の大学を卒業して北上市で働くことになったので、昨年の春から北上市で暮らしています。大学では現代美術・空間表現を専攻していて、卒業しても作品づくりは続けたいと思っていたのですが、社会人になったばかりだったので、まずは仕事をがんばろうと創作活動は休んでいました」

 

 

 

 

そんな倖芽さんの背中を押したのが、「諄子美術館」の館長を務める及川諄子さんです。倖芽さんが働きはじめて3ヵ月が過ぎ、仕事や新しい街での暮らしにも少しずつ慣れてきた頃でした。

 

 

「私が大学で現代美術を学びながら作品づくりをしていたことをお話ししたら、『また作品をつくって個展を開いてみたら』と勧めてくださって……。作品づくりは落ち着いたらまたはじめようと思ってはいたのですが、『個展を開く』という考えはそれまで全然なくて……」

 

 

諄子館長のアドバイスから自分の「個展を開く」という具体的な目標が生まれ、倖芽さんは作品づくりを再開。それから10ヵ月後、今回の個展の開催につながったのでした。

 

 

▲写真左上が大学時代の作品。それ以外は社会人になってから手掛けたもの。

 

 

「into」というタイトルが表すように、会場には倖芽さんの大学時代の作品から、大学を卒業して社会へと飛び込み、仕事をしながら創作した現在の作品まで、油彩画や立体作品などさまざまな表現手法で制作した10数点を展示。その作品づくりの日々を振り返ると……。

 

 

「私は物や風景をそのまま表現するよりも、それが持っている雰囲気とか目に見えないけど感じられるものを表現したいというのがあって、自分の五感で感じた世界を表現するのがすごく好きなんです。今回の個展も、そうした表現でやりたいことも頭の中にあったので、作品づくりはすごく楽しく取り組めました。

 

 

一番印象に残っているのは、個展のタイトルにもしている『into』という作品です。これは大学の卒業制作でつくった『born』の続編なのですが、『born』では自分が心地よいと思える曲線を忠実に再現して、空間全体をなぞるようなイメージで風が肌に触れるような柔らかさを表現しています。その表現ともう少し向き合ってみたいとずっと思っていたので、『into』の制作を通してそれに挑戦できてすごく楽しかったです」

 

 

▲左が大学の卒業制作「born」。倖芽さんが心地よいと感じる曲線を、空間をなぞるようにして表現。右はその続編として、社会人となった倖芽さんが今回の個展のために制作した「into」。風にたゆたうような線が、社会人となって力強く存在感を放つ表現に。

 

 

「ただ、『into』は盛岡の実家で制作していて、182×136cmの大作が完成したときはうれしかったのですが、そのサイズがマンションのエレベーターに入るかまでは計算もせず作品づくりに夢中になっていて……。運ぶときにちょっと焦りましたが、ぎりぎりエレベーターに入ったときはホッとしました(笑)」

 

 

「into」のタイトルには、エレベーターに入ったうれしさも含まれているのかも……。

 

 

▲倖芽さんに個展の開催を薦めてくれた諄子館長と。
「諄子美術館」のインスタグラムはこちら

 

 

▲個展の開催に向けて、作品のアイディアをまとめた倖芽さんのノートも展示。

 

 

高校で見つけた自分のスタイルにワクワク。

 

 

子どもの頃から絵を描くことが大好きだった倖芽さんが、美術について本格的に学びはじめたのは高校生になってから。

 

 

「絵画を学びたくて美術・工芸コースがある高校に行きました。周りには私と同じように美術をやりたい生徒が岩手県内から集まっていてたくさん刺激をもらえましたし、自分のやりたいことを突き詰められる3年間はすごく楽しかったです」

 

 

 

 

その3年間のなかで忘れられないのが、高校3年生のときに高美展(岩手県高等学校美術工芸展)に出展した100号の油彩画を描いたとき。倖芽さんは「物や風景をそのまま表現するのではなく、それが持っている雰囲気、目には見えないが感じられるものを表現したい」と創作活動に取り組んでいる話は先に触れましたが……。

 

 

「私が描いたのは抽象画で『夜光』という作品なのですが、完成したときは自分のなかで『すごくうまくいった』という実感がありました。描いているときも楽しかったですし、今の私の表現スタイルのはじまりとなった作品です」

 

 

▲倖芽さんが高校3年生のときに描いた「夜光」。夜の濁った空気感を表現するため、闇の奥にひっそりと浮かびあがるビルや工場を描き、確かにそこに在るのに、空虚ではかない様子を表現。

 

 

倖芽さんが出展した「夜光」は県の絵画部門で特賞を受賞。当時の高校生向けの美術のデジタル教科書にも掲載されるなど高い評価を得ました。その後、さらに美術の学びを深めようと北海道の大学に進学し、現代美術や空間表現を専攻し今に至りますが、美術関係の仕事に就くという選択肢は……。

 

 

「絵を描いたり、何かを表現したりすることは楽しいのでずっと続けていきたいですが、それを仕事にしたいとはまったく思わなかったです。私の父が転勤族だったので幼い頃は2年おきに引っ越しをしていて環境の変化に苦労したので、小学校3年生のときに母の実家がある盛岡市でずっと暮らすことになったときはうれしかったです。そういうこともあって、地元に定住して地域に貢献できるような仕事をしたいと思っていました」

 

 

そんなとき、高校の先輩が……。

 

 

▲幼い頃から絵を描くことが好きだった倖芽さん。5~6歳頃の作品。

 

 

ヨーゼフ・ボイスの言葉を胸に地域を支える。

 

 

高校では絵画を学んでいた倖芽さんですが、部活動は野球部のマネージャーをしていたそう。

 

 

「中学ではソフトボールをしていたのでソフトボール部に入りたかったのですが、私の行った高校にはなかったので野球部のマネージャーになりました。その部活の先輩が高校を卒業して公務員になって地元で働きはじめて、いろいろ仕事の話を聞くなかで、私も好きな岩手で地域の暮らしの基盤を支えるような仕事をしてみたいと思うようになったんです」

 

 

▲高校時代は野球部のマネージャーとして選手をサポートし、誰かを支える仕事の楽しさを実感。その経験が……。

 

 

そのため、大学での就職活動も……。

 

 

「岩手が好きなので、岩手に戻って仕事がしたいと県内の市町村を調べていたのですが、北上市は岩手県で唯一、文化芸術にまつわる条例を制定※ していると知って、芸術への理解と志が高いのでは?と興味を持ちました。

 

 

もともと盛岡市に住んでいる頃から北上市は元気な街で新しいことに挑戦している印象がありました。それに就活でいろいろ調べたときはホームページや広報物が充実していて、デザイン性も高くて、こういう街なら私の経験もいかせるのではないかと思ってワクワクしました」

 

 

※北上市では文化芸術をいかしたまちづくりを推進することにより、心豊かな市民生活と魅力ある活力に満ちた地域社会を実現するため、2021年に「北上市文化芸術基本条例」を制定。詳細はこちら

 

 

▲大学では同じ年代としかコミュニケーションをとらないため、その枠をひろげようとアルバイトにも奮闘。4年間働いた居酒屋さんでは年配の方と、2シーズン働いたスタジアムのビールの売り子の仕事では観光客や外国人とも仲良くなるなど、苦手だった初対面の人とのコミュニケーションも克服。その経験が仕事にも……。

 

 

こうして2025年4月、倖芽さんは北上市役所の職員として働くことに。現在は文化芸術の普及に取り組む生涯学習文化課 文化芸術係の一員として……。

 

 

「北上市の文化芸術の拠点のひとつになっている利根山光人記念美術館が今年開館から30周年を迎え、さまざまな企画が予定されていますが、私はそれらの事業を担当しています。利根山光人は茨城県出身ですが、北上市で鬼剣舞や鹿踊などの民俗芸能と出会い、展勝地にアトリエを構え創作活動をされていました。私も外から北上市に魅力を感じて来た人なので共感する部分も多いですし、この機会に多くの方に利根山光人というアーティストを知っていただきたいと思って取り組んでいます」

 

 

▲「利根山光人記念美術館」の開館30周年を紹介するポスター。

 

 

そんな倖芽さんに、今後の目標を尋ねると……。

 

 

「大学では『すべての人間は芸術家である』という言葉を学びました。ヨーゼフ・ボイスというドイツ人アーティストの言葉なのですが、仕事であれ何であれ、自分の意志で行動し、創造性を持って社会とかかわり、社会をより良く変化させていく活動がすべて芸術であると訴え自らそれを実践した方で、私もその考え方にすごく影響を受けました。

 

 

私自身も岩手に戻り、北上市に住み、公務員としてこの地域を支えていきたいと思ったので、自分なりの創造性を持って地域の未来のために貢献していきたいですし、もちろんまた個展が開けるように作品づくりも続けていきたいです」

 

 

『すべての人間は芸術家である』という言葉を胸に、人間が持つ創造力の楽しさと、それを通して社会とかかわり、地域に貢献できるこれからにワクワクしている倖芽さんです。

 

 

 

 

河原田倖芽さんが担当:

開館30周年「利根山光人記念美術館」

 

 

 

 

岩手県北上市立花15-153-2

 

 

【R8企画展ラインナップ】

「利根山光人  日本のまつりと民話」7月4日(土)~9月13日(日)

「地の下の挑戦者  金澤隆二展」9月19日(土)~11月29日(日)

 

 

リンクはこちら