KITAKAMI NEWS
【20代の肖像】vol.74 母校でコーチに。 ひろがる女子サッカーの未来。

母校でコーチに。
ひろがる女子サッカーの未来。
vol.74 吉武 きらら(よしたけ きらら) 25歳
負けていても「楽しい」? 信じる力が全国大会初の1勝に。
1994年の創部以来、高校女子サッカーの最高峰「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」に岩手県代表として9回出場するなど輝かしい実績を誇る「専修大学北上高等学校 女子サッカー部」。その長い歴史に、初の「全国大会1勝」という栄誉を刻んだのは、2019年のこと。創部から25年目の快挙でした。

▲2024年9月から人工芝に生まれ変わった専北のサッカーグラウンド。この環境に憧れ、県外から女子サッカー部に入部する生徒も多いそう。
その試合に守備の要のCB(センターバック)としてスタメン出場し、現在は同女子サッカー部のコーチを務める吉武きららさんは、当時の試合を振り返って……。
「相手は格上で、試合もずっと0対1で負けていたんですけど、すごく楽しかったんですよ」
全国大会でまだ1勝もあげたことがないチームで、しかも格上を相手に0対1で負けていて、普通なら「また負けるのか」と諦める状況。それでも楽しかったのは……。

「私は足がすごく速いわけでも、足元の技術が特別に優れているわけでも、フィジカルがすごく強いわけでもなくて、誰かよりも長けているところが全くない選手だったんです。今のチームは県外からいい選手が集まってきてくれていますが、当時はまだ県外の選手もほとんどいなくて、『個の力よりもチームで勝とう』という気持ちをみんなが持っていて……。
全国大会で初めて1勝できたあの試合も、今の専北のパスでつなぐサッカーではなくて、粘り強さで勝ったんです。そのときの、チームみんながひとつになって戦っている感じがすごく楽しくて……。ですから、試合で0対1で負けていたときも焦りや不安はなくて、『いける!勝てる!』と思っていました(笑)
私が『指導者になりたい』と思ったのも、そのときの楽しさがあったからで、上手いとか下手とか関係なく、好きなサッカーにみんながひとつになって楽しく向き合えるような環境をつくれる指導者になれたらと思ったんです」

▲練習試合の前のウォーミングアップ。技術面はもちろん、メンタル面や女性特有の悩みにも寄り添えるのが女性コーチの強みだそう。
そのときの試合は、終了間際に1点を返して1対1の同点となりPK戦に突入。チーム1人目のキッカーを務めたきららさんのシュートが決まり、その勢いのまま専北がPK戦を制し、全国大会で初の1勝を手にしたのでした。
ちなみにプレッシャーのかかるPK戦も、きららさんは「楽しかった」そう。しかし、好きなサッカーを続けながら、専北女子サッカー部の歴史に残る1勝をあげるなど充実した高校3年間を過ごしたと思いきや、その陰で大きな挫折も……。

▲2019年「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」2回戦に挑むメンバー。写真下段左から1人目がきららさん。

▲部員みんなで。学年の壁がなく、1年生でも3年生に意見が言え、「みんなで戦っていこう」というスタイルが専北女子サッカー部の強み。その伝統は今も受け継がれているそう。
チームみんなで……。新しい“自分”で挫折を力に。
「中学時代はフィールドプレイヤーとしてさまざまなポジションを経験しましたが、中学3年になるタイミングでGK(ゴールキーパー)をやることになったんです。GKがいないというチーム事情もあったのですが、そもそも岩手県内にGKがいないという状況で、東北トレセン(ユース世代を育成する取り組み)に参加する機会もいただきました。
そのため高校に進学するときには、GKとしていくつかの高校から推薦もいただいたのですが、私としてはやっぱりフィールドプレイヤーでがんばりたいと思っていて……。そんなとき、中学1年から私のプレーを見ていてくれた専北の徳信(とくのぶ)監督から『専北で一緒にサッカーをやろう』と声をかけていただいたんです」

1つ上のお兄さんの影響で小学2年生からサッカーをはじめたきららさんは、子どもの頃は足も速くウイングなどで活躍しており、GKよりもフィールドプレイヤーへの思い入れが小さい頃から強かったそう。おまけに当時の専北女子サッカー部はインターハイ初出場を決めるなど勢いがあり、それにも背中を押されて同校に進学。そして、女子サッカー部に入部するわけですが、当然そういうチームには熱意のある生徒も多く……。

▲小学5年生のきららさん。北上市内の小学校のサッカー少年団に入り、男子とともにサッカーに夢中に。
「周りが上手すぎて、1年目で挫折しました(笑) 私も『できる!』と思って入ったんですけど、1年目は全く試合に出られなかったんです。それでサッカーから気持ちも離れちゃって……。
そんなとき徳信監督にいろいろ声をかけていただきました。当時は“自分”のやりたいようにプレーしていたんですけど、『サッカーはチームスポーツだから、もっと周りに気を配れ』『周りを動かせるようになれ』というようなアドバイスをしていただいて……。少しずつですが、“自分”ではなくみんながひとつになって戦う楽しさに気づくことができて、サッカーへの向き合い方も変わっていきました」
また、高校2年生の冬に開催された「全日本高等学校女子サッカー選手権大会」の1回戦で優勝候補と対戦し、0対10で「ボッコボコ」にされたのも、きららさんには大きな転機に。その負けに奮起し、高校サッカーのラスト1年は「チームみんな」で挑み、初の全国大会1勝につながったのでした。

▲恩師・専北女子サッカー部の佐藤徳信監督のアドバイスが今もきららさんのコーチの原点に。

女性コーチとして4年目。ひろがる可能性。
保健体育の先生をめざして札幌大学に進んだきららさんは、大学でもサッカー部に所属。皇后杯JFA全日本女子サッカー選手権大会初出場に貢献するなど活躍する一方、大学3年生のときに「サッカーコーチC級ライセンス」(公益財団法人日本サッカー協会)の資格を取得。

▲札幌大学女子サッカー部のメンバーと。写真右下が大学2年生のきららさん。
「徳信監督とは大学に入ってもサッカーの試合の報告をするなど、やりとりさせていただいていたんです。そのなかで『女子サッカー部でコーチを探している』という話を聞いていて、将来役に立つかもと思ってライセンスを取りました」
その後、目標だった中学・高校の保健体育に加え、特別支援学校の教員免許も取得したきららさんは、北海道に残り保健体育の先生になるという選択肢もあるなか、徳信監督に声をかけてもらい地元に戻ろうと決意。
「母校に戻ってサッカーの指導者ができるチャンスはなかなかないと思ったんです。保健体育の先生の枠はなかったので非常勤講師として働きながらですが、それでもチャレンジする価値はあると思いました」

▲練習試合がスタート。メンバーはこの春に入学する新1年生たち。
こうして高校卒業から4年を経て、2023年4月から母校・専修大学北上高等学校 女子サッカー部のコーチに就任したきららさん。翌年には「サッカーコーチB級ライセンス」(公益財団法人日本サッカー協会)の資格も取得し、今年から国体の岩手県選抜(U-16)女子チームの監督としても活動。さらに専北女子サッカー部として、普段は男子と混じってサッカーをしている小・中学生の女子向けのスクールを、北上市と前沢地域(奥州市)で月1で開催するなど女子サッカーのコーチとして充実した日々を送っています。

▲ハーフタイムに課題や修正点などを指示するきららさん。
そんなきららさんに、指導者として大切にしていることを尋ねると……。
「主役はあくまでも選手ですけど、『上手くなりたい』とか『勝ちたい』とか、そういう熱量は選手より持っていたいと思っています。それで今でも試合に負けて選手より泣いたり、試合に勝って選手より喜んだりして、選手より熱が入りすぎてちょっと言い過ぎるところもあって、そういうところは指導者として課題だと思うのですが(笑)
『上手くなりたい』とか『勝ちたい』とか、そういうサッカーに向き合う姿勢は生徒にもいつもまっすぐでいてほしいし、私自身もそうありたいです」
専北女子サッカー部のコーチになって4年目を迎えたきららさん。現在では「きららさんみたいな指導者になりたい」と言ってくれる卒業生や、「きららコーチのところでサッカーをやりたい」と言ってくれる小・中学生が増えているそう。岩手県内でもまだまだ少ない女性サッカーコーチの道を切り拓いているきららさん。女子サッカーの未来を見つめるその眼差しは、きらきらと輝いています。

▲新2・3年生の部員たちと。
吉武きららさんがコーチを務めるチーム:
専修大学北上高等学校 女子サッカー部

岩手県北上市新穀町2-4-64
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