KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.10 大好きな料理で、「ありがとう」と言われる仕事を。

2021年1月25日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

「わぁー!」という感動を。

お客さまの笑顔を想い浮かべて。

 

vol.10 松川 千鶴(まつかわ ちづる) 22歳~

 

 

大好きな料理で、「ありがとう」と言われる仕事を。

 

 

「うわぁー!」

 

そう言ってお客さまが顔をほころばせる様子を見るたび、松川千鶴さんはうれしくなります。そして、お客さまに喜んでもらうために「料理をつくる」という今の仕事がますます好きになります。

 

 

そんな松川さんがプロの料理人をめざして、創業121年の老舗日本料理店「枕流亭(ちんりゅうてい)」に入社したのは2019年4月のこと。21歳のときでした。

 

小さい頃からおばあちゃんと料理をつくる時間が大好きで、好きが高じてお菓子づくりも趣味になったと語る松川さんですが、しかしそれを仕事にしようとは、20歳を過ぎるまで考えたこともなかったそう。

 

北上市のお隣・奥州市出身の松川さんは好きな料理に関わる仕事がしたいと、県内の短大で食物栄養学を学び「栄養士」の資格も取得。一般的にはその資格を生かして病院や福祉施設などの栄養士として働くところですが、しかし松川さんは違う仕事も経験してみたいと、人気の温泉宿で接客の仕事に携わることに。

 

「仕事は忙しくて大変でしたが、お客さまから『ありがとう』と言ってもらえることがうれしくて楽しく働くことができました。

 

ただ、そうやって仕事をしているうちに、せっかくなら自分の好きな『料理』でお客さまを喜ばせたいという気持ちが強くなったんです」

 

しかし、松川さんは調理師免許がないどころか、調理の仕事も未経験……。そんなときに出会ったのが「枕流亭」でした。

 

▲北上川のほとりに佇む「枕流亭」は1899(明治32)年創業の老舗日本料理店。雄大な北上川の流れとそれに架かる珊瑚橋、さらに対岸には「みちのく三大桜名所」にも数えられる展勝地を望む絶景が訪れるヒトを魅了します。

 

 

▲桜のシーズンの眺め。

 

 

 

大好きな料理のことを幅広く学べる環境にワクワク

 

 

当時、求人で目にした「調理未経験者歓迎・調理師免許取得も応援」というフレーズに惹かれて「枕流亭」の面接を受けた松川さんですが……。

 

「調理師免許の取得はもちろんですが、このお店なら料理のことを幅広く学べると思ったんです。それに面接のときも社長(5代目)とあゆみさん(女将)がやさしくて、お店の雰囲気もアットホームな感じで、こういうお店で働いてみたいと感じました」

 

更科十割蕎麦と四季折々の料理が堪能できる「枕流亭」は、手軽に楽しめるランチから会席料理のコースまで多彩な料理が味わえる人気店です。しかも、地元名物“きたかみ牛”や岩手県の新ブランド“四元豚(よんげんとん)”など素材にもこだわっており、料理のことをイチから幅広く学びたいと思っていた松川さんには理想的でした。

 

▲この日は、コロナの影響で昨年春からはじめたお弁当の調理を担当。写真は大人気メニュー「四元豚のステーキ弁当」。

 

 

さて、実際に働いてみた感想は?

 

「私は4月から働きはじめたんですが、すぐにお花見のシーズンを迎えたので、最初の頃は『とにかく忙しかった』というイメージしかありません。ただ、私は忙しいのは苦にならないんです」

 

そう言って笑顔を浮かべる松川さん。「枕流亭」は窓から眺める展勝地の桜並木も見事で、桜のシーズンは予約でいっぱいに。そうした時季に入社した松川さんですが、忙しいのは前の職場でも経験しており、そのことよりも「調理できることがうれしかった」のだそう。そんな松川さんが充実した日々の中で、出来立ての「四元豚のとんかつ」をお客さまにお持ちすると……。

 

「料理を見たお客さまが感動して『わぁー!』とおっしゃって笑顔になったんです。それを見たら、私もうれしくなって(笑)」

 

 

それ以来、お客さまを笑顔にする料理人に……。それが、松川さんの目標になりました。

 

▲「枕流亭」のランチメニューは、自慢の更科十割蕎麦とのセットメニューや、名物の北上コロッケ、四元豚のとんかつなどの定食が人気。

 

 

▲写真左は季節の食材で彩る会席料理のコース。右上は赤ちゃんが一生食べ物に困らないようにという願いを込めて、ごちそうを食べる真似をするお祝いの「お食い初め膳」。右下は冬の名物「せり鍋」。シャキシャキとした食感と根っこまで食べられる滋味豊かな味わいが好評。料理のことが「たくさん学べる」と語る松川さんの言葉にも納得のメニューです。

 

 

 

子どもからお年寄りまで。お客さまの顔を想い浮かべて。

 

 

松川さんが料理をつくるときには、できるだけお客さまのことをイメージするそう。例えば、コース料理などでお子様向けの一品をつくるとき。

 

「小さいお子さんは苦みのある野菜が苦手ですよね。ですから、そういうときはできるだけ苦みの少ない野菜を選んでみたり。デザートにはキラキラしたものがあったら喜ばれるかなと思って、小さなハートや星型の飾りを載せてみたり。最近はお店で販売している金平糖を飾りに使ってみたりしています」

 

 

そう言って楽しそうに笑う松川さんですが、2020年1月から新たなチャレンジも。「枕流亭」でデイサービスの献立づくりをお手伝いすることになり、「栄養士」の資格を持つ松川さんがその担当に。

 

しかし、その仕事は1日3食365日の献立を考えること。おいしさや栄養のバランスはもちろん、旬や彩り、調理方法もメイン料理を焼き物にしたら副菜は焼き物や炒め物ではなく和え物やサラダにしたりと、かぶらずに毎食料理を楽しめるように工夫を凝らすなど、お話を聞けば聞くほど大変そうですが……。

 

▲松川さんが考えた献立表。1日3食365日のメニューには、松川さんの工夫がいっぱい。

 

「デイサービスさんの献立づくりは、お店でお出しする料理とは違った家庭料理が中心です。基本的には私が献立を考えて社長に確認してもらうんですが、そのときにいろいろなアドバイスをしてもらえるので、とても勉強になりますし、私自身の料理の幅もひろがるので楽しいです」

 

入社してもうすぐ3年となりますが、その言葉から料理の楽しさがどんどん深まっている様子が伝わってきます。そんな松川さんを師匠は「何事にも一生懸命でガッツがある」と語れば、松川さんは師匠を「何でも知っていて、聞けば何でもやさしく教えてもらえるので勉強になります」とのこと。2人の師弟関係は厚い信頼で結ばれていました。

 

お客さまの喜ぶ顔を想い浮かべて……。22歳の料理人人生はまだはじまったばかりですが、良きお手本に導かれて、めざすべき目標に迷いはありません。

 

▲奥が松川さんの師匠・岡島親吾さん。地元の高校を卒業後、東京で5年間“和”の料理人として修行を重ね「枕流亭」の5代目に。

 

 

▲「和」を基調とした落ち着きのある雰囲気に心やすらぐ店内には、小さなお子様向けに懐かしい駄菓子もご用意。松川さんが料理に生かす金平糖も。

 

 

▲松川さんは「接客」も大好きだそう。「このお店で働きたいと思ったのは、『接客の仕事も好きならやっていいよ』と言ってもらえたことも大きかった」と松川さん。そのお陰で「わぁー!」と喜ぶお客さまの笑顔とも出会うことができました。

 

 

▲松川さんおすすめの一品。肉厚でジューシーな四元豚の旨味とこだりの特製ソースが絶妙にマッチし、ご飯やビールが進みます。

 

 

 

松川 千鶴さんが働く職場:四季乃味 枕流亭  

 

岩手県北上市川岸3-15-20

Tel/0197-63-3033