KITAKAMI NEWS
【市民ライター投稿記事】江戸から令和へ。受け継がれる寺子屋精神 ~北上市口内地区~
早速ですがみなさん「寺子屋」って聞いたことありますか?
どこか遠い遠い昔の話…。そう思われる方が大半かもしれません。
しかしその姿をたどってみると、今の私たちにも通じる温度がそこにあります。
今から約250〜300年前の江戸時代中期。
武士の子どもたちには「藩校」や「昌平坂学問所」といった学び舎がありました。その一方で、町人や農民の子どもたちが学ぶ場所として存在していたのが、「寺子屋」です。こちらは民間によって支えられた、小さな学びの場でした。寺子屋では読み書きや算術といった基礎だけでなく、その地域や暮らしに根ざした知恵なども教えられていました。
子ども自身の興味や「もっと知りたい」という気持ちを尊重し、大切に育まれてきたといわれています。
興味深いことに、寺子屋で「師匠」と呼ばれる人の多くは、僧侶や武士ではなく、町で暮らす、ごく普通の人々でした。特別な肩書きなどなくても、知っている人が、まだ知らない子に教える、その行為が地域を支える力になっていたのです。
その時代から幾世代もの時を経て、現在2026年…。
姿・形こそ変わりましたが、北上市内に今なお、その「寺子屋」の精神が受け継がれる形で存在していることをご存知でしょうか?
今回ご紹介するのは、北上市「口内(くちない)地区」。こちらの地域では、口内地区交流センターを中心に「くちない寺っこ屋」と呼ばれる取り組みが日常的に行われています。今回、職員の方々の全面的な協力のもと、活動の一部を取材させていただきました。

▲初訪問の口内地区交流センター。軒先には立派な氷柱が!北国の冬ならではの光景です。
初めて取材に訪れたこの日、2026年1月15日は暦でいう小正月。
北上(岩手県南部)の小正月は、五穀豊穣や無病息災、家内安全を願う、素朴で生活に根ざした行事が多く見られるのが特徴で、その代表的なものがみずき団子です。
ここに通ってくる子どもたちは、今回活動の一環として、そのみずき団子作りはもちろん、口内地区の特産でもある「もち料理」にも挑戦!つきたてのお餅が同日開催の「100歳体操」来場者に振舞われる予定とのこと。
一体どんなものができあがるのか?とてもワクワクしながら会場へ向かいました。
わたしが到着すると、既に屋内いっぱいに炊き上がる米の甘い香りが…。

▲この日参加したのは小学1年生から6年生まで計5名。まさにお餅づくりの真っ最中。蒸されたもち米を機械に投入すると、米のつぶつぶが回転しながら徐々に滑らかな形状へと変化していく様子を、興味津々で観察していました。
ここで少し、この地域(口内)の食文化と歴史について触れます。
北上市口内地区は、南部領と接する伊達領の最北端に位置する地域で、仙台藩の食文化の影響を色濃く受けており、江戸時代には、農民が日常的にもち料理を食べることが認められていたとされます。さまざまな味付けや工夫が重ねられ、正月や小正月のほか、田植えが無事に終わったことを祝う「さなぶり」、さらに4月と9月に女性たちが集まって行う「山の神講」など、地域で多くの人が集まる行事ではつきたての餅を用意して祝う習慣があり、大切な節目を祝う象徴として親しまれてきました。
今回、そんな伝統ある「もち料理」の作り方の講師を務めたのは、口内在住で令和5年度「岩手県食の匠」を受賞された昆野広子(こんのひろこ)さん。
寺っこ屋の子どもたちの他、口内地区交流センターからの呼びかけに応じて集まった地域の方々も数名おり、和気あいあいと作業を進めていました。
紹介されたのは、数あるもち料理の中でも特にこの地域に古くから伝わる「わさびもち(わさび餅)」「くるみ餅」「いかもち(イカ餅)」の3種類。

▲講師の昆野さん(写真左)によると、つきたてのお餅は、一度氷水を張った容器に移し粗熱をとった後、水から引き上げて再びつく(二度つき)ことで、時間が経ってもコシがあって滑らかなお餅に仕上がり、硬さはその際に加える水の量で調整できるそう。熟練の技が、生きた美味しいお餅に仕上げます。さすが「食の匠」。
山わさび(西洋わさび)は、口内地区では各家庭でも栽培されており、ほぼ年中収穫できることから身近な食材として重宝されていたそうです。また、岩手は和ぐるみ(鬼ぐるみ)の産地。古来より山に多く自生していたため、県内全域でよく食べられていました。精進料理や法事の「おもてなし料理」には欠かせない食材であり、県内の地方特産品として「くるみ豆腐」「くるみゆべし」なども有名です。

▲くるみ餅の隠し味はなんと「味噌」。わたしも味見させていただいたのですが、お味噌をほんの少し加えただけで、コクが出て味に深みが増していました。口内地区では、自家製のお味噌を作っている方も居るとか。
ただ一つ疑問だったのはイカ餅…。ここは内陸部なのになぜ郷土料理に海産物の「イカ」が…??
気になって講師の昆野さんにお尋ねすると、とても興味深い回答を得ました。
昭和初期、スルメイカは今よりも収穫量が豊富で、内陸に暮らす人たちにとっては貴重な海産資源だったそうです。口内地区は海へ向かう道の途中にあたる場所で、沿岸で水揚げされたイカが、鮮度の落ちないうちに運ばれてきたといわれ、人々はそのイカを分け合いながら、海の味を身近に楽しんでいたのではないかとのこと。
郷土料理の文化は、その土地各々、地理や気候、風土など様々な要因が複雑に絡み合って発展し、代々受け継がれてきたことにその奥深さを感じました。

▲イカ餅は「腑ワタ」がコクの決め手だそう。美味しいイカの見分け方なども教えていただきました。
寺っこ屋の子どもたちも、昆野さんをはじめとする一般参加者の皆さんと楽しそうに会話を交わしながら、終始和やかな雰囲気の中で調理を進めていました。高学年の子は、低学年の子を自然にサポートし、作業の安全面に気を配りながら、「誰にどの工程をお願いするとスムーズに進むか」を考え、的確に声をかける姿も印象的でした。

▲みんなで力を合わせて、3種類のもち料理が見事完成!この日は約50人分のもち料理を作りました。写真左上のお漬物は地域の方から提供されたもの。郷土料理に彩りを添えます。
※今回、昆野さんが披露した「もち料理」のレシピは、岩手県公式YouTubeで詳しく紹介されています。是非ご覧ください。(外部リンク)
また、お餅づくりと同時進行で作業が進められた「みずき団子」作りも順調。
粉に着色料を混ぜて色付けし、水を加えて練っていきます。それを棒状にまとめたら、一口大に小さくちぎって掌で転がしながら丸めていきます。お団子を大鍋で茹であげ、周りに粉を塗して完成!

▲さすがは、ベテラン。お団子作りも手慣れたもの。

▲カラフルなお団子が着々と完成!あとは茹でるだけ!

▲1年生がお団子を茹でる工程を担当。6年生は優しく見守りつつ、火傷などしないように目配り、気配り。それが自然にできるのが、ここの「寺っこ屋」。素晴らしい!!
お餅とお団子、全ての準備が整ったところで、ここからは全員ホールへ移動。同日行われている「100歳体操」の方々も交え、小正月行事(みずき団子の飾り付け)を行いました。

▲飾り付けの前の準備。ミズキの枝は芽があると団子が刺しにくく、見栄えも悪くなるため、事前に芽を取り除く作業中。

▲世代間交流会のスタート!ミズキの枝にお団子を子どもたちと一緒に飾る「100歳体操」参加者の方々。「昔は、自宅で毎年木を採ってきて小正月やったもんだ〜。懐かしい〜。」と笑顔。

▲ミズキの枝は、この日のために、昆野さん自宅付近の山林から採取したもの。カラフルで素敵に彩られていきます。

▲お団子と共に吊るされている飾り物。これも寺っこ屋の子どもたちと100歳体操の参加者で事前に作成していたもの。鶴亀 宝船 米俵など縁起物にも様々な願いが込められています。

▲講師の昆野さんより、みずき団子の色は日本の四季、春(ピンク)夏(青)秋(黄金)冬(白)をそれぞれ表現しているというお話があり、会場の皆さんも頷かれていました。
外は真っ白な雪景色が広がっていましたが、会場内はまるで春が来たかのように暖かく和やかな空気に包まれました。
そしてここからお待ちかね、できたての「もち料理」を食べながらのご歓談タイム。

◆大人の間に子どもが座るような配置で、お互いに会話のキャッチボールを楽しみながらの会食。

▲「あらあら、お口の周りに美味しいのがついてるわよ〜」と参加者さん。とっても微笑ましい(^^)

▲「お餅を家族にお土産に、、、」という方のために、持ち帰りも可能な容器で提供されていました。職員の方々の細やかな心配りも素敵です。
世代を超えた交流は、得るものが多く、お互いにとても有意義な時間を過ごしていたようでした。
参加者のお一人に、「どのお餅が美味しかったですか?」とお尋ねしたところ、「どれも美味しいけれど、やっぱり イカ餅かなー?昔みんなで食べたのを思い出す。昔から変わらぬ懐かしい味」とおっしゃっていました。
やはり、小さい頃の楽しかった思い出は何歳になっても忘れないものなんだなぁと感じました。
「地域の子どもたちが、生涯心に残るような素敵な思い出をたくさん残してあげたい」「ここでしか味わえない体験をさせてあげたい」「いずれはこの子達がその想いを継承し、後世に伝えてくれたら嬉しい」そういった声も聞かれました。
※当日の雰囲気が伝わるよう、動画を作成し、YouTubeの北上市公式チャンネルで公開しました。編集は息子が買って出てくれたものですので、記事とあわせてご覧いただけるとうれしいです。是非ご覧ください。(外部リンク)
最後に、今回参加した「くちない寺っこ屋」の子どもたち5名に、全体を通しての感想を聞きました。
◆今回は2回目の参加でした。お餅づくりでは、前回はやらなかった山わさびを細かくする作業を初めて体験しました。わさびの「からみ」が目に沁みてお皿に盛るのが難しかったです。お団子作りは、学校の授業でも白玉を作ったのでそれを思い出しながら作ることができとても良い体験になりました。 菊池 純菜(きくち あやな)さん【6年】
◆くるみもちのくるみを細く潰すところを頑張りました。お団子作りでは、柔らかい生地が手にくっついてしまって、綺麗に丸めるのが大変でした。 菊池 愛璃(きくち あいり)さん【4年】
◆少し大変だったのはわさびを切るところとくるみを潰すこと。それと、ミズキの枝にお団子を飾る前に、芽をとることも数が多くて大変でした。お団子を丸めるのは楽しかった。 川添 嵩介 (かわぞえ こうすけ)さん 【4年】
◆みずき団子の、団子をゆでているときが、熱くてとるのが(お鍋から掬いあげるのが)たいへんでした。 岡本 創史(おかもと そうし)さん【1年】
◆みずき団子をまるめるのがたのしかった。上手にできた。 川添 廉介(かわぞえ れんすけ)さん【1年】
〜取材を終えて(あとがき)〜
今回ご紹介したのは、普段の「くちない寺っこ屋」活動のうちの、ほんの1日を切り取ったものであり、その魅力をどこまでお伝えできるか正直半信半疑でした。
でも、最後までこの記事を読んでくださった方々には、少なからず魅力を感じ取っていただけたのではないかと思っています。
時代は変わり、社会の仕組みや働き方も大きく変わりました。それでも「子どもは社会の宝である」という思いだけは、昔から変わらず受け継がれてきたように感じます。人が人を育て、その積み重ねが、地域をつくり、歴史をつくってきたことは確かです。
だからこそ、「自分だけが幸せであればそれでいい」という発想では、どこかで歪みが生まれてしまうのかもしれません。誰かの幸せが、巡り巡って自分の幸せにつながる。寺子屋には、そんな感覚が自然に息づいていました。
その風景は、教育とは何か?社会とは何か?を今もそっと問いかけているようにも思います。
取材にご協力いただきましたみなさま、誠にありがとうございました。

【取材協力】
◆北上市口内地区交流センター 職員御一同様
◆ 口内地区交流センター「100歳体操」参加者様
◆「くちない寺っ子屋」事業参加者様
◆岩手県食の匠 令和5年度認定 昆野広子様