KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.68 団体の枠を越えて。 神楽の楽しさを未来へ。

2025年10月31日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

団体の枠を越えて。

神楽の楽しさを未来へ。

 

 

vol.68

 

【更木神楽】

千葉 響     (ちば ひびき)    28歳

伊藤 正樹 (いとう まさき)24歳

米沢 奈桜 (よねざわ なお)23歳

平野 温夏 (ひらの のどか)21歳

千葉 雅     (ちば みやび)       3歳

 

【成田神楽】

小笠原 華奈子(おがさわら かなこ)    28歳

柏崎 圭祐        (かしわざき けいすけ)25歳

 

【更木石名畑神楽】

小原 愛里紗(おばら ありさ)23歳

 

 

 

権現頭、庭元……。“怖い”を乗り越えて。

 

「小さい頃は権現頭が本当に怖くて……。中に入れば怖くないかなと思って(笑)」

 

「自分も小さい頃は権現頭を見るだけでギャン泣きでした(笑) でも『踊れば怖くない』と姉に言われ続けて、一緒にやるようになったんです」

 

そう語るのは成田神楽に所属する小笠原華奈子さんと柏崎圭祐さんの姉弟です。更木石名畑神楽の小原愛里紗さんも小さい頃は権現頭が怖かったそう。

 

「権現様が来ると頭をかじられるので、それが怖くていつも炬燵に隠れていました(笑)」

 

 

▲写真左上より時計周りで小笠原華奈子さん、柏崎圭祐さん(ともに成田神楽)、3人が子どもの頃に怖かった権現頭(神楽「権現舞」で使用)、小原愛里紗さん(更木石名畑神楽)。

 

 

一方、更木神楽のメンバーは……。

 

「小さい頃から親や親戚に連れられて神楽を練習する場所に遊びに来ていたので、権現頭も見慣れていて、怖いというのはなかったですね。むしろ、庭元の方が怖かった(笑)」

 

千葉 響さんの言葉に、他のメンバーから笑い声が起こります。

 

 

▲写真左上より時計周りで伊藤正樹さん、平野温夏さん、千葉 響さんと雅くん、米沢奈桜さん(ともに更木神楽)。

 

 

▲雅くんもお父さんの響さんとよく練習場に遊びに来ているそう。いつかお父さんと舞う日も……。

 

 

更木神楽と成田神楽は早池峰岳流(はやちねたけりゅう)の流れをくむ山伏神楽であり、1824年に創始した成田神楽より伝授され、1867年に更木神楽が誕生しました。また、更木石名畑神楽の愛里紗さんは、更木神楽の正樹さんと同級生という間柄。それぞれ所属する団体や神楽との関わり方などバックボーンは違いますが、そうした縁がつながって現在は団体の枠を越えて一緒に練習する仲間でもあります。

 

きっかけは昨年(2024年)、成田神楽が創始200周年記念公演を開催するにあたって、成田神楽と師弟関係でもある更木神楽と太田神楽(花巻市)が協力することに。

 

「昔は交流があったのですが、いつしか途絶えていました。それが『また一緒にやろう』となったのは、担い手不足の問題もあって人の貸し借りなど困ったときに助け合うのはもちろんですが、更木にあって成田にないもの、成田にあって更木にないもの、そういうものがあるので、お互いに教え合っていければ、団体はもちろん一人ひとりの成長にもつながると思ったんです」

 

そう語るのは、更木神楽の10代目庭元・伊藤豪さんです。その取り組みが広がり、現在では「北上・みちのく芸能まつり2025」や9月に開催された盛岡八幡宮例大祭にも人を貸し合って参加。日頃から合同練習(毎月第1・3水曜日)する機会を設け、協力して発表する場をつくることで、交流はさらに深まっているそう。

 

なかでも一番刺激を受けているのが、それぞれの団体に所属する20代の若手たちです。

 

 

▲更木神楽では9月16日に行われた盛岡八幡宮例大祭で神楽を奉納。成田神楽のメンバーも参加した舞台には多くの観客が訪れ大盛況。

 

 

▲会場では「権現舞」も披露され、権現様に頭を噛んで邪気を払ってもらおうと、たくさんの観客が権現様のもとへ。

 

 

「違い」が「気づき」に。「教える」が「学び」に。

 

団体の枠を越えた合同練習が昨年からスタートして、参加している20代のみなさんはどう感じているのでしょうか。

 

「合同練習をやる前から2人(成田神楽の華奈子さんと圭祐さん)の舞が好きで、『すごいうまいよね』という話しをしていたんです。そういう2人の舞を間近で見られるのはすごく勉強になります。それに更木にあって成田にない踊りを自分が教えるとき、自分が曖昧に覚えていた部分が明確になって、自分の踊りを見つめ直すきっかけにもなっています。そういう意味でも合同練習は人に教えるだけではなくて、自分もレベルアップできる機会になっています」(正樹さん)

 

「マンネリ化じゃないですけど、ふだん練習していると、仕事をして疲れたときなんかはちょっと手を抜いたりすることもあるんです。でも合同練習のときは、いい意味で『負けられない』という気持ちもあるので、仲良く練習しつつも『本気でやらなきゃ』となりますね(笑) そうやってお互いに高め合えるのがいいなって思います」(響さん)

 

 

▲神楽は日本最古の書物である「古事記」や「日本書記」が題材。舞手は「神聖な場所」と「俗世」を区別する境界(幕)から現れ、舞を披露。響さん曰く、観客を前に「幕をくぐって舞台に登場したときの緊張感と、いいパフォーマンスができたときの高揚感」が神楽の魅力だそう。

 

 

「私は今まで他の団体の踊り方を意識することはなかったんですが、合同練習をするようになって他の団体の踊りを間近で見られるようになると、女の人でもこういう風に踊れるんだなとか、ここを真似したいなと思う部分が出てきて、自分の今までの踊り方について考え直す、いい機会になっています」(温夏さん)

 

「私はみんなと比べると、まだまだわからないことや覚えていない踊りも多くて、それがすごいストレスなんです。それでも辞めたいと思わないのは、最近だと圭祐さんが更木の踊りを覚えて楽しそうに練習していて……。私も小さい頃は権現様が怖かったけど、踊ってみたら楽しかったということもわかっているので、『わからないから、踊れないから辞めよう』じゃなくて、『こうやってがんばっている同世代の人たちが身近にいるから私もがんばって新しい踊りを覚えよう』というモチベーションになっています。新しい踊りを覚えたら、楽しいだろうなって思えるから(笑)」(愛里紗さん)

 

 

▲盛岡八幡宮の公演の様子。「裏八幡」の演目には更木神楽の若手4人(響さん・正樹さん・奈桜さん・温夏さん)が登場し、息の合った舞を披露。

 

 

「踊っていても楽しくないというか、自分は何のためにがんばって練習しているんだろうと思ったり、自分の考えがあっても若手なので言い出しづらかったりして、熱意が下がって練習を休みたいと思うときもありました。

 

でも、同年代が踊っている姿を見るとやっぱり『負けたくない』という気持ちになるし、最近は同年代が集まって練習するだけではなくて、飲み会をして語り合う機会が増えたんです。そこではお互いの舞がどう見えるかとか、もっとこういうやり方もあるよとアドバイスし合ったりとか、ときには意見が合わないこともあったりするんですけど、みんな神楽が好きという部分は共通しているので、何でも言い合える雰囲気が楽しいですね」(圭祐さん)

 

「若手なので自分の考えを言い出しづらい」という言葉には共感の声もあるなか、団体の枠を越えて同年代がつながり学び合う合同練習には多くの気づきと可能性を感じ、それぞれがわくわくしているようでした。

 

 

▲「権現舞」の前に踊った「下舞」に温夏さんが登場。ベテラン2人に囲まれながら、堂々とした舞を披露。

 

 

▲更木神楽は縄文より続く古の地・更木八天地区にある八森神社の附属神楽として1867年に誕生。盛岡八幡宮例大祭では、同神社の宮司・及川雄さんも登場し、更木神楽の歴史と魅力を紹介した。

 

 

楽しい神楽の未来を、みんなで。

 

最後に今後の目標についてうかがうと女性陣から熱い想いが……。

 

「神楽自体が男の人がやる民俗芸能というイメージが根づいているので、女性の舞手はまだまだ珍しいと思われています。だからこそ女性の舞手をもっともっと増やしたいなと思っていて、女性が神楽を舞うということが当たり前になるようにがんばっていきたいです」(奈桜さん)

 

「私は男性の舞手には負けないようにって、ずっと思いながら神楽をやってきたんです。体格では適わないので女性としてのしなやかさを武器にして、かつどこを大きく見せるかとか、そういうところを意識して踊っているのですが、神楽の舞には正解がなくて、踊っている人それぞれ、みんなが正解というのが神楽の魅力だと私は思っています。だからこそ女性だって活躍できるし、もっと増えてくれたらと思うし、そのためには私たちが楽しく神楽をやり続けていくことが大事なのかなと思っています」(華奈子さん)

 

 

▲「注連切(しめきり)」の演目は、成田神楽の圭祐さんが担当。刀を使った迫力のある舞で観客を魅了した。写真右下、お囃子の太鼓を担当しているのが、更木神楽10代目庭元・伊藤豪さん。

 

 

一方、男性陣も……。

 

「地元(更木)の芸能まつりに出たとき、自分の舞を見た年配の女性から『涙が出た』と言われたことがあって……。それから自分の舞を極めるために、もっともっと成長したいと思うようになったんです。でも神楽は団体でやるものなので、最近は自分だけではなくて、みんなが上手くならなければ意味がないと思うようになったんです。

 

今、人に教えるという経験をしてみて、自分の踊りを人に伝えることの難しさと大切さを実感していますが、そういうことをみんなができるようになるといいんじゃないかと思っています。そのためには日頃の練習から自分の考えや意見を気軽に言い合える雰囲気づくりを自分からつくっていくことが大事なんじゃないかと思っていて、みんなで成長して『あの団体が一番上手い』と言われるようになりたいです」(正樹さん)

 

「自分もみんなと同じです。いろんな人に神楽の魅力を知ってほしいし、新しい人にも入ってきてほしいし……。それぞれの団体が仲間を増やしていくことが大切なので、みんなで助け合いながら、神楽の楽しさをひろげていきたいですね」(圭祐さん)

 

団体の枠を越えてお互いが支え合うためにスタートした合同練習ですが、それがきっかけで若いチカラも横でつながり、仲間の輪をひろげ、神楽の未来を楽しくしていこうと動き出していました。みなさんの今後の活躍が楽しみです!

 

 

▲盛岡八幡宮例大祭の奉納公演も無事終了。お疲れさまでした。

 

 

▲北上市民俗芸能協会では北上市内の民俗芸能団体で活躍する20~40代が集まり、団体の枠を越えてみんなで楽しく交流する「Wa-Cha・ラボNight 2025」がスタート。そちらも今後の展開が楽しみです。同協会HPはこちら

 

 

8人が所属する団体:

早池峰岳流 更木神楽  公式Xはこちら

早池峰御岳派 成田神楽 公式Xはこちら

更木石名畑神楽