KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.9 “責任”とは? ひとつのミスから学んだ「軌道工」としての誇りを胸に。

2020年12月22日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

“責任”とは? ひとつのミスから学んだ
「軌道工」としての誇りを胸に。

 

~vol.9 髙橋 翔聖(たかはし しょうま) 27歳~

 

 

重機から降りたい……。“責任”ある仕事だからこその直訴。

 

 

今年の春、仕事中に髙橋翔聖(しょうま)さんは一歩間違えば重大な事故につながりかねないミスをしました。

 

 

翔聖さんが勤める「株式会社 第一鉄道」は、線路の新設・保守・メンテナンスなどを行う軌道工事専門の会社として1976(昭和51)年に創業(1991年に「㈲第一軌道開発」から現在の社名に変更)。

 

 

 

 

 

以来、東北地方の軌道工事に長く携わり、2001(平成13)年から北上市を拠点に東北本線の水沢~花巻区間、北上線の北上~湯田高原区間の線路の保守・メンテナンスなどを担当しています。

 

 

地域の足となる重要な社会インフラとして、365日休むことのない列車の安全で安定的な運行を支え続ける同社の仕事は、最終電車が通過した深夜からスタート。

 

 

 

▲作業前の様子。しっかり安全確認をして、線路へ。

 

 

照明の灯りを頼りに屋外で行う作業は力仕事も多く重労働。さらに機械化が進んでいるとはいえ、重機を使う作業は重さ80kgを超える大きなコンクリートなども扱い、少しのミスが大事故や翌日からの列車の運行に影響を及ぼすことも。

 

 

しかも、社会の重要なインフラの保守を任せられているだけに、そのひとつのミスが会社の信用失墜につながる事態にも……。

 

 

 

 

 

そのミスが起きたのは、同社に入社して3年目を迎えた翔聖さんが、資格を取得したばかりの大型重機に乗って初めて作業を行っていた現場でした。

 

 

「最初の何日間かは支障もなく重機を扱えていたんですが、その日に初めてミスしてしまって……」

 

 

結果的には問題なかったそうですが、一歩間違えば重大な事故につながりかねないミスをしてしまった翔聖さんは、責任を感じ「重機から降りたい」と社長に直訴したそう。

 

 

しかし、……。

 

 

▲大型重機(バックホー)を操作している翔聖さん

 

▲この日は、列車の重さで下がったレールを平らにするため、マクラギの下に砕石を入れて固める「つき固め」という作業を実施。線路を常にベストな状態に保つことが、安全・安定運行の基本だそう。

 

▲「株式会社 第一鉄道」の担当エリア。

 

 

 

乗り越えてほしい……。この経験を、未来の糧に。

 

 

 

「ボクも責任を感じて社長に『降りたい』と言ったんですよ。そしたら『乗ってもらわないと困る』と言われて……。『このヒト(社長)は鬼か!』と思いました(笑)」

 

その重機を扱える資格を持っているヒトは他にもいて、「そういう先輩に乗ってもらえばいいんじゃないか」と翔聖さんは考えたのでした。今回は、結果的には何も問題は起こりませんでしたが、「自分が携わる仕事は社会に対して責任ある仕事」だという自覚と、「もしまたミスしたら次こそ会社に迷惑をかける」とわかっているからこそ、翔聖さんは社長に直訴したのです。

 

 

しかし、返ってきた言葉が……。

 

 

「『困る』って(笑) 事故が起きたら、そっちの方が困りますよね……。でも、今にして思えば、あえて社長はそう言ってくれたのかなって思うんですよ。若い自分に経験を積ませるために……」

 

 

 

▲打ち合わせ中の翔聖さん。その相手は……。

 

 

 

 

結局、その現場で翔聖さんは大型重機から降りることなく仕事を続け、当初の予定通り作業を無事終えることができたそう。当時の思い出を楽しそうに振り返る翔聖さんのイキイキとした表情には、「現場を無事やり終えた」という大きな達成感がありました。

 

 

 

「株式会社 第一鉄道」は新人や若手の育成、さらには社員の技術向上のため、昨年の2月、会社の敷地内に訓練線をつくりました。そして、休みの日にそこで練習する翔聖さんの姿を、同社の代表取締役を務める中村美由樹さんもよく知っています。

 

 

 

「翔聖くんはまだ入社3年目ですが、列車見張員・車両系建設機械(整地)・重機械運転者などの資格を取得して、この秋には中型免許も取って、軌陸車(軌道と道路の両方を走れる車両)の運転もできるようになったんですよ。

 

 

 

確かにこういう仕事をしていると失敗は誰だって怖いし、会社のことを思ってという気持ちはうれしいんですけど、翔聖くんががんばっていることを知っているからこそ、ここは乗り越えていってほしいと思ったんです」

 

 

 

そう語る中村さん。翔聖さんが「鬼か」と思った社長の中には、仏が……。

 

 

 

 

▲「株式会社 第一鉄道」の代表を務める中村美由樹さん。「社長には何でも話せる」と翔聖さんも厚い信頼を寄せています。

 

▲2019年2月に会社の敷地内につくられた訓練線。重機に乗り、練習しているのが翔聖さん。次は除雪もできる「特殊運転者」の資格を取ろうと勉強中だそう。

 

 

先輩のように……。やさしく教えてあげられる責任者に。

 

 

 

そもそも翔聖さんは、なぜ、この仕事を選んだのでしょうか。

 

「高校時代に自動車整備の勉強をしていたんですよ。ですから、いつか自営でそういう仕事をやりたいと思っていて、その資金を貯めるためにこの会社に入ったんです。給料がすごくよかったんで(笑)」

 

 

 

 

 

社長の前で思わず当時の本音を漏らしてしまった翔聖さん。しかし、現在は……。

 

 

 

「先輩たちはみんな言うんですよ、『レールは生き物だ』って。レールって、暑いときは伸びるし、寒いときには縮むんです。ですから、同じ作業をするにしても、同じやり方は通用しません。

 

 

 

レールは生き物だから、毎日違うレールの状態を見て対処していく。そこがこの“軌道工”という仕事の面白さ、本当に奥が深い世界なんですよね。

 

 

 

確かにミスの許されない責任ある仕事だし、現場の作業は体力を使う外仕事だし、すごく大変ではあるんですが、社会のインフラを守る仕事をうちの会社は1社でずっと任せられている。それって、すごいことだと思うんです」

 

 

 

力強くそう語ってくれた翔聖さん。現在ではこの仕事にやりがいと大きな誇りを感じていました。そんな翔聖さんに今後の夢を伺うと……。

 

 

 

「まずは現場を任せてもらえる責任者(現場監督)になることですね。

 

 

 

この仕事は資格がいっぱいあって、資格を取るほどできることもひろがっていきます。ですから、取れる資格にはチャレンジして、ひと通りの仕事ができるようになって、新人が入ってきても丁寧にわかりやすく教えてあげられるヒトになりたいんです。

 

 

 

今のボクがいるのも、そういう先輩がいたから。今度は自分がそういうヒトになれたらと思っています」

 

 

 

社会のインフラとして重要な役割を担っている鉄路。その上で今日もひとりの軌道工として仕事に励む翔聖さん。ひとつのミスから学んだ“責任”と“誇り”を胸に、その眼差しはどこまでも伸びる2本のレールのように、まっすぐ未来に向けられています。

 

 

▲実践的な訓練を行う「実設訓練」に参加している翔聖さん。

 

 

▲安全会議中のグループ討議の様子。27歳の翔聖さんは一番の若手。

 

 

▲休みの日には友達とリフレッシュ。スノボは子どもの頃から夢中だそう。また、ものづくりも好きで自らデザインも(写真下段中央)。日焼けが大嫌いな翔聖さんは肌にも気を遣うイマドキの男子です(写真下段右)。

 

 

 

 

 

髙橋 翔聖さんが働く職場:株式会社 第一鉄道

 

岩手県北上市相去町田抱59-14
Tel/0197-67-6771