KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.58 悔しさをバネに。 サックスで未来を奏でる。

2025年1月16日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

悔しさをバネに。

サックスで未来を奏でる。

 

 

vol.58 菊池 萌花(きくち もえか) 24歳

 

 

 

ずっとひとりで、ひたすらサックスを吹く日々。

 

歌うように吹けるところが好き……。

 

すぐれた音楽的才能の発掘と育成をめざして全国規模で開催される「全日本管楽コンクール2024」の一般プロ・サックス部門(U30)で見事1位を獲得した菊池萌花さんに、サックスの魅力について尋ねるとそう答えてくれました。

 

 

▲2023年3月に大学を卒業した萌花さんは地元・北上市に戻り、小学校の講師をしながら「全日本管楽コンクール2024」に出場し、見事1位に。

 

 

萌花さんとサックスの出会いは中学1年のとき。3歳からピアノを習っていた萌花さんは音楽が好きで、中学では吹奏楽部に入部。

 

「サックスにはもともと興味があって、あの音がヒトの声に似ていて好きなんです。それに吹奏楽部の花形はトランペットとサックスと言われていて、吹奏楽部に入ったら絶対サックスを吹きたいと思っていたんです。

 

ただ、生徒がどの楽器を担当するかは先生が決めるのでどうなるかと思ったのですが、先生から『あなたはこれ(サックス)』と言われたときはすごくうれしかったです」

 

 

 

 

そう言って笑顔を浮かべる萌花さんですが、当時はピアノとサックスの二刀流で、音楽コースのある県内の高校に進学したときは、小さい頃から続けていたピアノをがんばろうと思っていたそう。

 

「本当は吹奏楽部にも入らず、ピアノだけをがんばろうと思って入学したのですが、結局、吹奏楽部にも入部してしまい、そこでサックスを演奏しているうちにサックスがどんどん面白くなって(笑)

 

音楽コースにはピアノの先生はいるのですがサックスを教えてくれる先生はいなかったので、サックスの練習は独学でがんばるしかなくて……」

 

ずっとひとりで、ひたすらサックスを吹く日々だったそうですが、高校2年からはコンクールにも参加。やがて独学にもかかわらず全国大会に出場するまでに上達した萌花さんは、「もっと本格的にサックスを学びたい」とサックスの専攻コースがある大学への進学を決意します。

 

しかし、受験には実技の試験もあり、きちんとした先生のレッスンを受けたことのない萌花さんは……。

 

 

▲高校入学時の萌花さん。ピアノは3歳からはじめたそうですが、サックスが面白すぎて……。

 

 

“地方”ならではの「悔しさ」をバネに。

 

「大学受験にはサックスの実技試験もあるので専門の先生に学びたいと思ったのですが、近くにそういうところがなくて……。そんなとき、有名なサックス奏者の方が東京から水沢(奥州市)にある楽器屋さんに来て月イチでレッスンをしてくれると知って、高校3年になって初めてそのレッスンに通うようになったんです。大学を受験するにしては遅すぎるんですけど(笑)

 

でも、私としては独学で全国大会まで行ったので、それなりにサックスには自信を持っていたのですが、そのレッスンで自分はものすごく下手なんだと思い知らされて(笑)

 

 

 

 

先生から『高校生でサックスを習っている子たちには“練習曲”というのがあって、それをたくさんやって上手になっていくんだよ』と言われたんですけど、その時点で私は“練習曲”というものを1曲もやったことがなくて、『私ってすごく遅れているんだ』と改めて気づかされました」

 

と語る萌花さんですが、その悔しさをバネに「練習量はすごいね」と先生に褒められるほど練習に励み、大学受験の実技試験もパスし、サックスの専攻コースがある北海道の大学に見事合格。しかし、そこでも……。

 

「サックスの専攻コースには私を含めて3人いたのですが、みんなものすごくうまくて……。あとで聞いたら、他の2人は高校時代からその大学の教授にサックスを習っていたんです。入学できて喜んでいたんですけど、そこでも『私って本当に遅れているんだ』と気づかされました(笑)」

 

しかし、そこでも萌花さんの心は折れることなく、その悔しさをバネに「大学4年間は遊ばずにずっと練習していました(笑)」と語るほどサックスに打ち込み、大学3年のときに全日本クラスのコンクールで3位に。さらに大学4年のときには、北海道の若手音楽家の登竜門「札幌市民芸術祭 新人音楽会」で大賞を受賞するなど努力が実を結びます。その大学4年間を振り返ると……。

 

「大学2年のときにコロナがあって演奏会も何もできなかった時期もあったんですけど、でも好きなサックスに打ち込めて、それが結果にもつながっていったので楽しい4年間でした。ただ、大学に入学したときは『音楽の先生になりたい』と思っていたんですけど、大学できちんとサックスと向き合っていくうちに、もっとサックスを勉強したいと思うようになったんです」

 

クラシック・サックスの本場、フランスへの留学。それが萌花さんの新たな目標になりました。しかし、……。

 

 

▲「遊ばずにずっと練習していた」大学時代。努力が実を結び、サックスがさらに大好きに。

 

 

▲大学4年時に札幌市民芸術祭・新人音楽会で大賞を受賞。と同時に「もっとサックスを勉強したい」という想いも……。

 

 

▲「全日本管楽コンクール2024」の会場。この舞台で萌花さんは、高校2年のときに初めて出場したコンクールで吹いたロジェ・ブートリー作曲「ディヴェルティメント」を披露し1位に。「高校2年のリベンジのつもりで思いっきり吹きました(笑)」と萌花さん。

 

 

地元で音楽活動しながらサックスを教えるヒトに。

 

現在、萌花さんはフランスに留学するという目標をもちながら、地元の小学校に講師として勤務しています。

 

もともと音楽の先生を志望していたため、子どもたちと過ごす講師の仕事は楽しく充実していると語る萌花さんですが、サックスの練習の時間がなかなか取れないことが悩みだそう。

 

 

▲北上市立二子小学校で社会と音楽の授業を担当する萌花さん。この日はさまざまな楽器の音色を聴き、言葉で表現する授業に4年生(30人)がチャレンジ。「夢みたいなやわらかい音」といった表現も飛び出し、「子どもたちの表現力にはいつも驚かされますし、自分も勉強になります」と萌花さん。

 

 

そんなとき今年度から「全日本管楽コンクール」の楽器の対象にサックスが新しく追加されると知り、奮起。

 

「サックスでコンクールに出場するとなると自分で伴奏者を手配する必要があるんですが、会場が東京だったりすると伴奏者には謝礼の他に交通費や宿泊費も私が用意しないといけないんです。それもあって私としては今までコンクールに参加したくてもできませんでした。

 

でも、このコンクールは運営側が伴奏者を手配してくれるのと、今年度からサックス部門が新設されたという条件も揃ったので、社会人になって初めてコンクールに挑戦することにしたんです。

 

ふだんフルタイムで仕事をしていると練習の時間もなかなか取れないなかで、コンクールという目標ができたのは励みになりました。それに社会人になってからは伴奏者と演奏する機会もなかったのですが、コンクールに参加して久しぶりに伴奏者と演奏できたので楽しかったです」

 

そう語ってくれた萌花さんがフランスに留学したいと思う理由。それは、サックスをもっと勉強したいという想いとともに……。

 

「ずっとサックスを続けているなかで、東北には本格的に音楽を学べる環境がまだまだ少ないと感じていました。ですから、私もフランスに留学してもっともっとサックスの勉強をして、いつか北上市に戻ってサックスの音楽活動もしながら、本格的にサックスを学びたいヒトはもちろん、いろんなヒトがサックスの面白さを学べる場所をつくっていけたらいいなと思っています」

 

本格的な音楽の学びの場が少なかった「悔しさ」を乗り越えて。サックスで未来を奏でる萌花さんです。

 

 

▲萌花さんは2023年に休暇をもらってフランスに1週間ほど音楽留学。そこで出会ったアレクサンドル・スーヤ先生の「キレイな音」に惹かれ、フランス留学への想いがさらに強まったそう。

 

 

▲授業ではサックスの生演奏も披露。

 

 

▲サックスの迫力のある音に触れた子どもたち。授業が終わると興味津々の様子で萌花さんの周りに。

 

 

菊池萌花さんが講師を務める学校:

北上市立二子小学校

 

 

 

北上市二子町鳥喰22-2