KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.43 得意の上段回し蹴りで一撃。岩手から世界へ。

2023年10月5日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

得意の上段回し蹴りで一撃。岩手から世界へ。

 

 

vol.43  藤本 美桜(ふじもと みお) 20歳   

 

 

“泣き虫”の道場生からの出発。

 

 

今年の4月に開催された「2023国際親善空手道選手権大会」(主催/国際空手道連盟 極真会館)の組手 18歳~34歳 女子-65kg級で、得意の上段廻し蹴りを決め見事優勝を果たした藤本美桜さん。そんな彼女が「空手」と出合ったのは小学2年の夏でした。

 

 

▲「2023国際親善空手道選手権大会」で優勝し、授与された賞状とメダルと一緒に。

 

 

「父が空手のイベントを見に行くというので、一緒に連れていってもらったのが最初です。そのとき会場にいた道場生から『一緒にやろう!』と声をかけられたのがきっかけで、『私も空手をやりたい!』と母に強くせがんだみたいです。そのときのこと、よく覚えていないんですけど(笑)」

 

 

小さい頃から外で遊ぶのが大好きで、日が暮れて両親が家に連れ戻そうとしても逃げ回って遊んでいたという美桜さんにとって、「空手」も最初は楽しい遊びのひとつだったのかもしれません。

 

 

しかし、美桜さんに「一緒にやろう!」と声をかけたのは、国際空手道連盟 極真会館 総本部岩手道場(館長:松井章奎)の道場生たちです。極真会館の会員数は世界120ヵ国・約1200万人にのぼるそうですが、その人気を支えているのが素手・素足による直接打撃制(フルコンタクト)を採用した実践的でスリリングな組手の魅力。

 

 

美桜さんは、その北上道場で空手をはじめることに……。

 

 

 

 

「最初は型をやっていて空手の稽古も楽しかったんですが、組手をやるようになると思い通りに技ができないし、相手に技を決められると痛いしで泣いてばかりいました。道場のなかでも、かなりの泣き虫だったと思います(笑)」

 

 

当時は美桜さんと同じ年代の道場生が多くいて、そうした仲間が大会に出場するなかで美桜さんは大会に出られるレベルになかなか達することができず、それも悔しかったそう。

 

 

「すごく覚えているのが、小学3年くらいの頃なんですけど、たまたまその日は家に帰りたい気持ちが強くて稽古中に時計をキョロキョロ見ていたんですよ。それを先生に気づかれて、『帰れ!』と言われたんです。自分が悪いので仕方がないんですけど、それがすごいショックで……」

 

 

しかし、そこで「もう辞めよう」と思わなかったのは、やっぱり「空手が楽しい」から。

 

 

それをきっかけに稽古態度を見つめ直し、改めて極真会館が重んじる「礼儀」を大切にしながら稽古に励むように。

 

 

しかし、それですぐ上達するほど空手も甘くはありません。美桜さんが初めて大会に出場できたのは、それから2年後の小学5年のとき。その結果は……。

 

 

▲空手をはじめた頃(小学2~3年)の美桜さん。

 

 

 

得意技が自信に。“泣き虫”から東北の一番へ。

 

 

美桜さんが出場した初めての大会は、小学5年のときに青森県で開催された東北大会。満を持して挑んだ大会でしたが、顔面に蹴りを決められて1回戦敗退に。

 

 

初めて大会に出場する緊張感に加え、相手は身体も大きく、そんな選手に蹴りを決められて負けてしまったことですっかり自信を喪失した美桜さん。また“泣き虫”の道場生に戻りそうになったとき、お父さんが間近に迫る一番大きな国際大会に勝手にエントリーしたことがわかり……。

 

 

「『どうせ負けるのになんで?』と思いながら出場したんですけど、1回戦を勝っちゃったんです。ロシアの選手と戦ったんですが上段廻し蹴りが決まって、2回戦は関西の大会で優勝している選手だったんですが、そのときも上段廻し蹴りと上段前蹴りが決まって……。結局、準々決勝で負けたんですが、この大会で自分の得意技が通用することがわかって自信になりました」

 

 

▲小学6年時、国際親善空手道選手権大会に初出場しベスト8に進出。親子3人で。

 

 

以降、「上段廻し蹴り」と「上段前蹴り」を武器に大会に出場し、小学6年の岩手県大会で初めて“優勝”を経験。さらに中学に入ると、小さい頃から足が速かった美桜さんは「陸上」と「空手」の二刀流で活躍することに。

 

 

「陸上は3年生のときに4×100mリレーで全国大会の準決勝まで行きました。空手も3年生のときに岩手大会と東北大会で優勝しました。ただ、高校は陸上に専念しようと思って、空手の稽古は続けましたが大会には出場しませんでした。試合をやりたい気持ちはあったんですけど、ケガが怖かったので……」

 

 

▲高校時代は陸上に専念(写真手前が美桜さん)。新人戦(100m)で県3位、4×100mリレーでは東北大会に何度も出場。陸上で鍛えた脚力が、今の空手にも……。

 

 

しかし、高校の3年間、空手の大会と遠ざかっていた美桜さんは、大学生になって大会に出場すると思わぬ気づきが……。

 

▲矢巾で開催されたイベントに「国際空手道連盟 極真会館 総本部岩手道場」が登場。

 

 

▲同イベントで美桜さんは前後左右の板を次々に割る「板四方割り」を披露。

 

 

▲同じく頭突きとかかと落とし瓦割りで会場を沸かせたのが、総本部岩手道場責任者の松村典雄氏。世界大会日本代表の実力者であり、美桜さんの憧れの存在。

 

 

素手・素足の戦いにワクワク。岩手から世界へ。

 

 

「大学生になって3年ぶりに出場した大会が全日本(体重別空手道選手権大会)なんですが、全日本は18歳以上が出場できる極真会館でも一番大きな大会で、国際大会と違って防具なしで素手・素足で戦うんですよ。

 

 

素手・素足の戦いは自分も初めてで、しかも一番大きな大会で戦う緊張感もあったんですが、それ以上に試合をやっていてすごく楽しかったんですよ。上段廻し蹴りも出せたんですが、決めきれなくて結局1回戦で負けちゃったんですけどワクワクしました(笑)」

 

 

一番大きな大会で、緊張感のある会場の雰囲気と、周りには有名な選手が勢揃いしているというワクワク感。そして、同じ場所に岩手代表として立っている喜び……。

 

 

「そういう状況で結果を出せたら、すごくかっこいいだろうなと思ったんです」

 

 

以降、稽古にさらに熱が入るようになり、その努力が結実したのが今年の4月に開催された「2023国際親善空手道選手権大会」でした。しかも、世界各国から8人の強豪がエントリーするなかで、オーストラリアの選手と戦った準決勝、ロシアの選手と戦った決勝ともに得意技となる上段廻し蹴りや上段前蹴りを決めての優勝でした。

 

 

▲4月の国際親善空手道選手権大会にて。決勝でロシアの選手に勝利し見事優勝。

 

 

美桜さんはその勢いのまま、6月に開催された「全日本体重別空手道選手権大会」にも出場。同大会は、今年11月に開催される4年に1度の極真会館の世界最高峰の決戦の場「第13回オープントーナメント全世界空手道選手権大会」に出場する日本代表の選考も兼ねています。

 

 

この夢の舞台をめざして美桜さんも出場しましたが、1回戦はラスト5秒で決めた上段前蹴りで勝利をおさめたものの、続く2回戦で優勝候補との対戦となり、上段廻し蹴りは出せたものの決めきれず……。

 

 

「2回戦負けでしたが、1回戦で戦った相手は大学生になって初めて出場した大会の1回戦で戦い負けた選手でした。その選手に得意の技で勝てたことはうれしかったです。

 

 

4年に1度の世界大会は一番憧れている大会で、岩手では松村先生(岩手道場の責任者)が出場して以来、誰も出場できていないんですよ。だからなおさら4年後は自分が出場して、松村先生に続いて結果を残し、岩手の空手をつないでいきたいと思っています」

 

 

6月の敗戦の悔しさを胸に、チカラ強くそう語ってくれた美桜さん。“泣き虫”だった女の子は、得意の技にさらに磨きをかけ、世界を見据え、動きだしています。

 

▲北上道場の組手稽古の様子。得意技の上段廻し蹴りや上段前蹴りがさく裂。

 

 

▲北上道場は女性の指導員がいるのも魅力。美桜さんもいずれは選手をやりながら、北上道場の指導員へ。

 

 

▲美桜さんが所属する北上道場の一般部は、中学生・女子高生から50・60代まで10数名が在籍しており、みんな仲が良いそう。北上道場では他に「少年部」(4歳~12歳)もあり、毎週火曜と土曜に稽古をしています。

 

 

▲北上道場のメンバーと。

 

 

藤本美桜さんが所属する道場:

極真会館 総本部岩手道場 北上道場  

Tel/019-647-3351(総本部岩手道場 事務局)