KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.32 深まる楽しさ。15歳のワクワクを今も。

2022年10月24日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

 

 

 

深まる楽しさ。
15歳のワクワクを今も。

 

 

vol.32  川又亜美(かわまた あみ) 25歳

 

 

工業高校で出会ったものづくりの楽しさ。

 

 

加工したいモノを回転させて削る「旋盤」、刃物を回転させて加工したいモノを削る「フライス盤」、さまざまな加工が1台でできる「マシニング」……。

 

 

川又亜美さんは中3のときに高校見学した際、さまざまな機械を使ってモノをつくる工業高校の実習を見てワクワクしました。

 

 

だからこそ進学先も地元の黒沢尻工業高校 機械科を選択したわけですが、亜美さんはそれまで男子としゃべるのが苦手だったそう。工業高校といえば女子は少ないイメージですが、不安はなかったのでしょうか。

 

 

「もちろん不安でしたけど、それ以上に機械を使ってものづくりをすることが楽しそうだったんです。

 

 

ただ、私が入学したときは女子が学年で8人しかいなくて、機械科は私も含めて2人だけでした。先生から『女子は約10年ぶり』と言われてさらにびっくりしました(笑)」

 

 

 

 

実際の高校生活を尋ねると……。

 

 

「工業のこともよくわからないし、それまで触ったこともない機械ですし、わからないことだらけだったんですけど、それでも自分で機械を動かして寸法通りにモノが完成したときはうれしくて……。私の場合は、機械を動かしているときが一番楽しかったですね」

 

 

そう言って笑顔を浮かべる亜美さんですが、女子が少ない苦労は……。

 

 

「最初は不安もありましたけど、重い物を運んだりするような大変な作業は男子が手伝ってくれるし、みんなやさしいし、むしろ実習に集中できました(笑)」

 

 

そんな亜美さんが高校を卒業して選んだ仕事は……。

 

 

▲高校時代の亜美さん

 

 

▲全国大会に出場経験もある弓道部に在籍し、弓道漬けの毎日だった高校時代。写真右は社会人になってから

 

 

 

 

ミクロン単位の高精度なものづくりに魅せられて。

 

 

亜美さんが現在働いているのは、地元・北上市にある1961年操業の「多加良製作所 岩手工場」です。

 

 

▲北上市和賀町にある「多加良製作所 岩手工場」。敷地内は緑にあふれ、鳥のさえずりに癒やされる恵まれた環境です

 

 

同社では、半導体・自動車・医療・照明・食品など日常生活を彩る幅広い分野の製品の「金型」を製作しています。ちなみに、「金型」とは製品を量産する際に欠かせない金属などでできた「型」のことで、身近でいえばクッキーの生地をくり抜くときに使う星型やハート型の「型」や、たい焼きのように材料を流し込んでカタチをつくる「型」などもそれです。

 

 

日常生活で使用するモノの約90%はこの「金型」からつくられているそうで、同社では金型製造の分野で60年以上にわたって積み重ねてきた実績と、その間に培った優れた技術力をバックボーンに国内はもちろん中国・台湾・ASEAN各国のさまざまな企業へ金型製品を届けています。

 

 

その製造部門のすべてが岩手工場に集約されており、亜美さんは7年前に高校を卒業して入社。以来、大好きな機械を使ったものづくりに日々励んでいます。

 

 

 

 

「私が担当しているのはワイヤー放電加工と呼ばれる工程です。具体的には専用の機械を使って、直径0.2mm程度の細いワイヤーに電気を通して、その放電熱で金属を溶かしながらプログラムした形状にそって糸のこぎりと同じ要領で材料を加工し、ミクロン単位の寸法に仕上げます」

 

 

▲写真下段左がおよそ0.2mmのワイヤー。専用の機械を使ってこのワイヤーに通電し、糸のこぎりのように加工するのが「ワイヤー放電加工」であり、亜美さんの仕事です

 

 

「ワイヤー放電加工」はミクロン(1mmの1000分の1)単位の高精度な微細加工ができる点が特徴ですが、亜美さんが使用している機械はその中でも最先端のもので、これまで水中で行っていた作業を油の中で行うことでさらに高精度な加工ができるようになるそう。

 

 

その高い性能を喜々として語る亜美さんからは、日々の仕事に楽しく向き合えている様子がよく伝わってきます。

 

 

▲「ワイヤー放電加工」でつくったサンプル品。高硬度な鋼材にも写真のように微細加工が可能に。下段右は違う加工法ですが、高硬度鋼材の表面に宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の全文を彫刻するという微細・精密な加工を行っており、岩手工場の技術力の高さがよくわかります

 

 

「金型はひとつひとつが違うので、毎回つくるたびに加工条件も違えば、加工物のセットの仕方も変わってきます。それを考えることが楽しいですし、私もまだまだ教わりながらですけど、それでも教わったことを実践しているとそれが自分の知識にもなっていって、『この場合はこうしたらいいんだ! ああしたらいいんだ!』という発見が日々増えていくのが面白いんです」

 

 

▲上段/加工する鋼材を治具(加工物を固定し加工しやすいように補助する工具)にセットし、専用の機械で加工。このセッティングも毎回変わるそう。 下段/完成した加工物の最終チェックを経て、次の工程へ

 

 

亜美さんは「多加良製作所 岩手工場」に入社して7年。「ワイヤー放電加工」に携わって6年になるそうですが、それでもまだまだ「教わることばかり」とのこと。ものづくりの奥深さを改めて実感すると同時に、その奥深さに亜美さんは高校時代と変わらずワクワクしているのでした。

 

 

 

 

諦めずにコツコツと。その先に……。

 

 

「世の中のために役立っていると実感できるところですね」

 

 

仕事のやりがいについて尋ねると、亜美さんはそう語ってくれました。「多加良製作所 岩手工場」では具体的に名前は出せませんが、食品の容器や文具など私たちが普段目にする日々の暮らしに欠かせないモノから、AV機器・家電製品・コンピュータ・自動車などの心臓部に使われる半導体まで、多種多様な金型を生み出しています。

 

 

亜美さんが手掛けた金型も私たちの日々の暮らしを彩るさまざまなシーンで活用されており、それが亜美さんのやりがいになっているのでした。

 

 

 

 

そんな亜美さんがものづくりをするうえで大切にしているのが、「諦めない」こと。

 

 

高品質・高精度な製品を量産するだけでなく生産性も高めるためには、それの基となる「金型」もそれ以上の高品質・高精度が求められます。亜美さんの仕事はお客さまの要望をカタチにした設計図をもとに、設計図通りに加工してそれを具体的にカタチにしていく作業ですが、実際の加工には高い技術力が求められると同時に、限界を超えるような高い要求に応えなければならないことも時にはあるそう。しかし……。

 

 

「先輩たちを見ていると、“諦める”ということがないんですよ。それが難しいオーダーだとわかっていても、どうすればその寸法を出せるかを常に考えてものづくりに取り組んでいます。

 

 

ですから私も正直『できるかな?』と思うこともありますが、自分で工夫したり、先輩にも相談したりしながら諦めずに取り組んでいますし、実際にその寸法通りにモノができたときはすごくうれしいです。きっとそれがあるから、ものづくりは楽しいんですよね」

 

 

そう語る亜美さんに今後の目標を尋ねると、「何でもできる、ものづくりのスペシャリストになることです」と即答。

 

 

中学時代の高校見学の際に工業高校で出会った“ワクワク”を今も変わらず持ち続ける亜美さんは、今日もワクワクしながら奥深いものづくりの世界に挑んでいます。

 

 

▲写真右は、この春「北上翔南高校」から入社した小笠原彩さん。「多加良製作所 岩手工場」では普通科出身者も多く、多加良製作所のものづくりの遺伝子を後輩に伝えていくことも亜美さんの重要な役割に

 

 

▲加工部のみなさんと

 

 

 

川又亜美さんが働く職場:株式会社 多加良製作所 岩手工場(外部サイトへリンク)

 

 

岩手県北上市和賀町竪川目1-33-126
Tel/0197-72-2141