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【市民ライター投稿記事】本棚の空白に思いを馳せて ~図書館の裏側、少し覗いてみませんか?vol.2~

2022年9月22日

市民ライター 北村 美紀

 

 

戦争の傷跡を語るのは、人だけではないのかもしれません。

 

 

今回も北上市立中央図書館のお話を。(前回の記事はこちらからご覧ください)
皆さんが普段出入りするのは図書館の2階部分。1階部分には事務室と、膨大な量の本をおさめた書庫があります。普段は入れない場所である書庫と、そこに眠る貴重な記憶についてご紹介したいと思います。

 

 

閉架書庫と呼ばれるもので、利用者には公開されていません。ただしここにある本は、図書館の職員の方に申し出れば借りることができます。開架に置き切れなくなった本や、利用回数が少なくなった本がこちらに保管されています。

 

 

私はここからもよく本を借りるので、カウンターで申し出ています。そのたびに職員の方が爽やかに「書庫行ってきます!」と探しに行ってくださいます。
その時探しに来て下さるのがここだったのか…と取材の際に少し感慨にふけってしまいました。利用者が多く、カウンターが混雑しているときでも2階のカウンターから1階のこの広い書庫に探しに行って下さる…それが申し訳ないやらありがたいやらで、改めて図書館の運営を担ってくださっている職員の方々のありがたみを感じる次第です。

 

 

 

 

1階書庫向かって右手の本棚たち。ハンドルをぐるぐる回せば本棚が動くので、固定式のものより大量の本を保管できます。ちなみにこの廊下の突き当りの方向が、図書館正面の入り口となります。

 

 

 

 

1枚目の写真の反対側、書庫向かって左手側の本棚たち。木製の本棚というあたりに時の流れを感じます。膨大なキャパを持つ書庫とはいえ無限の広さを持つわけではないので、書庫 で廃棄する本などを整理するのだそうです。決められた位置に本が並ぶ閲覧室とは違う 独特の空間が、これまた本好きにはたまりません。

 

 

2階の普段出入りする空間とは違った、紫外線で本が傷んでしまうので窓のない少し静謐(せいひつ)な空間。長い時間を経た本たちの“古い”香りもまた良いです。1階の書庫にいると、田舎の祖父母の家の書斎にでも潜り込んだような気分になります。

 

 

 

 

今回この書庫ツアーで私がご紹介したかったのは、和賀地区で発刊されていた和賀新聞です。背表紙に書かれた日付をご覧になっていただくとわかりますが、なんと明治のものまで!このように昔のものまできちんと保管されていることに驚きと感動を覚えます。

 

 

アプリやWebなどでも新聞記事が読めるようになり、紙に触れる機会も減る昨今ですが、やはり紙の新聞には紙ならではの良さがあります。

 

 

 

 

写真は昭和7年の和賀新聞。意外と読める?と思いつつ、横書きが右から左に書かれているのがこれまた時代を感じます。

 

 

新聞の紙面にはその時代時代の空気が反映されています。戦時中の頃の新聞からは、言論統制下の当時の空気などを伺い知ることができるそうです。全国紙では言えないようなことを、ローカル紙だからと少し皮肉ったりと、それぞれの時代を生きた人たちの声がこの和賀新聞に眠っています。

 

 

また北上は、北上川の存在や南北をつなぐ交通の要所として交通の便が良く、情報の交差点としての一面も持っていたようです。

 

 

中でも印象的だったのはこの写真の部分。昭和19年から21年10月までのものがありません。これは終戦前後のもので、この時期のものは戦争の影響により発行されなかった そうです。

 

 

 

 

 

 

終戦から77年が経った今年。メディアでも当時を知る語り部がいなくなってしまうことが心配されています。語り継ぐ人がいなくなることは悲惨な記憶の風化につながってしまいますが、一方で当時の傷跡を語るのは、人ばかりでもないのでは、とこの空白 を見て感じました。

 

 

明治・大正の頃から保管されていた新聞が、終戦前後の部分だけぽっかりと欠落する。もの言わぬ書物が語る、戦争の傷跡のように感じました。

 

 

最近報道されることは減ったように思いますが、ウクライナ情勢の報道を受けて戦争に関心を持つ人は増えたとのことでした。戦争関連の資料を求め、図書館を訪れる方も少なくないようです。

 

 

こちらはシベリアで捕虜になった方の体験記。

 

 

 

▲書名『シベリア捕虜記』菊池敬一/文・画 小峰書店1995 ※休版中ですので、図書館等でご覧ください

 

 

平和な時代に生きる私たちにとっては遠い過去の出来事ではありますが、決して忘れてはならない記憶のひとつです。

 

 

夏になると思い出される戦争の記憶。テレビやネットで報道されるものを見ることの方が多いですが、図書館に眠る本たちも、その当時の記憶を抱いて誰かに思い出してもらうことを待っています。

 

 

お盆休み、久しぶりの帰省でお墓参りに行かれた方も多いと思います。今は亡き祖先に想いを馳せるように、そっと書物を紐解いて、当時の記憶に触れてみてはいかがでしょうか。退屈にすら見えてしまう平和な時代が、とても尊いものだと気づかせてもらえるかもしれません。たくさんの悲しみと苦しみを生んだ時代を知ることが、現代を生きる私たちができる平和への一歩のような気がします。その悲しみと苦しみを繰り返さないように。

 

 

※北上市立中央図書館では、和賀新聞を館内での閲覧に限りご覧いただけます。貸出は行っておりませんのでご注意ください。