働く/まちのインタビュー
2015年、北上市に地ビールの醸造所「さくらブルワリー」が誕生しました。オーナーは、イギリス出身のスティーブンさん。空手を極めるため22歳のときに来日し、京都で暮らした後に北上へ移住した彼は、長年、英会話教室とアクセサリーショップを経営。新たなチャレンジとしてビールづくりを始めたスティーブンさんに、事業にかける想いを聞きました。
北上の自然に向き合っていると、
とてもリラックスできるんです。
来日したばかりの頃は、私にとって京都も岩手もひとくくりで同じ日本。地域の違いは気にしていなかったので、北上に移住する時も不安はありませんでした。3年間住んだ京都と比べると、こっちの人はとてもフレンドリー。北上に来た当初は日本語も片言で、しかも方言が難しくて全く理解できませんでしたが、みんな親切に助けてくれましたね。北上に来て素晴らしいと思ったのは、豊かな自然。手つかずの自然が好きで、美しい山並みや清らかな川を眺めているととても癒されます。毎朝1時間くらい、犬を連れて展勝地を散歩しているのですが、それは頭の中を整理して1日の仕事を組み立てる大事な時間。自然の中を歩いていると、くつろいだ気持ちでゆっくり思考できるんです。
新しいビールとの出会いを、
多くの人に楽しんでもらいたい。
これまで私は、いろいろな仕事をしてきました。来日前はシェフ、京都では空手の先生、北上に来てからは英会話教室とアクセサリーショップのオーナーです。地方で外国人が仕事をする場合、職種が限定されてしまうことが多く、
良い仕事がないことも暮らしにくさの原因のひとつかもしれません。
私は長い間、英会話とアクセサリーの仕事をしてきたのですが、新たな事業にチャレンジしようと思い2015年に地ビールの醸造所「さくらブルワリー」を立ち上げました。
世界にはクラフトビールが何千種類もあるんですが、日本では大手ビール会社がつくる数種類しか知らない人がほとんど。北上の人たちにもっと美味しいビールがあることを伝えたい、そう思ってイギリススタイルのビール醸造を始めました。ビールをつくる仕事は、とてもクリエイティブ。毎回同じものではなく、毎回もっと美味しいビールをつくろうという意識でやっています。特にビールの味を決める煮沸には、集中力が必要ですし、自分の経験と感覚が頼り。現在、25種類ぐらいつくっていますが、展勝地の桜酵母や和賀町岩沢地区の天然水などを使い、地域の個性を生かしたビールづくりにも取り組んでいます。大変なこともいろいろありますが、お客様に「美味しい」と喜んでいただけた時が、一番ハッピーですね。
まちなかは整備されていて暮らしやすいですし、市街地からちょっと足を延ばすと自然が広がっているので、バランスがいいですね。私には子供が3人いるのですが、一人ひとりを丁寧に指導してくれる教育も素晴らしい。治安も良く安全に暮らせるのも、まちの魅力だと思います。
仲間との交流を広げながら、
また新たな酒づくりにも挑戦。
いま、ビールをつくっている東北のブルワリー9社で「東北魂ビールプロジェクト」に取り組んでいます。半年に1回集まってレシピを研究し、それぞれの醸造所で仕込んでいるんですが、ここに集う仲間はライバルではなく、家族。東北の地ビールを育てていこうと協力し合える関係は、この地域の素晴らしいところではないでしょうか。私自身もコンサルタントとして他県の醸造所に関わりながら、交流を広げています。将来的には北上産ジンの醸造も考えており、地域の新たな魅力になってくれればいいなと思っています。