KITAKAMI NEWS

【20代の肖像】vol.67 ここでもう1度。 自分の理想の保育をめざして。

2025年9月29日

きたかみリズム×きたかみ仕事人図鑑

 

ここでもう1度。

自分の理想の保育をめざして。

 

 

vol.67 倉本 涼(くらもと すず) 28歳

 

 

 

「やり切った」保育士の仕事。その先で……。

 

「おはようございま~す」という先生の温かな声に迎えられてバスに乗り、「行ってきま~す」という先生の元気な声に合わせてお母さんに手を振る……。幼稚園にバス登園していた子どもの頃、そんな朝のひとときが倉本 涼(すず)さんは大好きでした。

 

 

 

 

倉本さんが保育士になろうと思ったのも、その原体験があったから。しかし、実際に働いてみると……。

 

「保育士になりたての頃は、右も左もわからなくて、毎日必死でした(笑)

 

私なりに『こんな風に育ってくれたらステキだな』といろいろ考えて、学校で学んできたことと目の前にいる子どもたちの姿を照らし合わせながら、『こんなときはどうしよう?』『次はこういう接し方をした方がいいかな?』と工夫して……。『仕事が楽しい』というよりは、子どもたちにどう接していけばいいかを思い悩んでいるときの方が多かったですね」

 

その悩みは保育士として経験を重ねていっても尽きなかったそう。

 

「子どもと1対1だったら、とことん寄り添ってあげられるのですが、保育の現場は1対多数になるので、1人でたくさんの子どもを見ようとすると、子どもたち1人1人と向き合う時間がどうしても限られてきます。そうなると『こうしてあげたかったのにできなかった』という反省や、『もっとこうしてあげたかった』という想いがどんどん募っていってしまうんです」

 

 

▲2歳児クラス(4名)を担当している倉本さん。園庭で遊ぶため、外出の準備。

 

 

しかし、それでも保育士を続けられたのは、保護者の方の「ありがとう」の言葉と、子どもたちの「育ち」が見えたときのうれしさだそう。なかでも1番印象に残っているのは……。

 

「運動会のリレーがあったのですが、練習のときに『1人でなんて走れない。できないよ』と泣く女の子がいたんです。

 

『大丈夫だよ。1人で走れるから。何かあっても必ず助けてあげるから』と励ましながら、毎日手をつないで一緒に走るんですけど、1人で走らせようとすると『できないよ。ムリだよ』と言って泣いちゃって、結局1人で走れないまま運動会の日を迎えたんです。

 

リレーの本番では、いざとなったら私が手をつないで一緒に走れるようにスタンバイしていたのですが、その子は自分の番になったら覚悟を決めて、バトンをしっかり受け取って私の手もにぎらずに1人で走り切ることができたんです。

 

その子が1人で走れたことはもちろんですが、その子自身も1人で走れたことを喜んでいて、保護者の方もその子以上に泣いて喜んでいて……。それがすごくうれしくて、強く印象に残っています」

 

子どもたちとどう接していけば、その子のより良い成長につながるのか……。悩みながら、試行錯誤を重ねながら、憧れだった保育士として6年間働いた倉本さんは、「やり切った」ような気がして退職を決意。以前から興味のあった美容の世界にチャレンジすることに。しかし……。

 

 

▲園庭では1歳児クラスの子どもたちと一緒にお遊び。

 

 

▲みんなで育てている朝顔のお世話をする女の子。

 

 

自分の理想の保育をめざして。

 

「保育士を辞めて、前から興味のあった美容の世界に飛び込んで、やりがいも感じたのですが、ふと『子どもたちが周りにいない』ことに気づいて(笑)

 

『やり切った』と思ったはずなのに、その仕事を離れてみると、保育士ではない自分に物足りなさを覚えて、『本当に私がやりたい仕事は保育士なんだ』と改めて気づかされました」

 

 

 

 

また保育士として働きたいと思った倉本さんは、大規模保育園での6年間の経験を踏まえ、次は小規模の保育園で働こうと決意。

 

「大規模な保育園は人数が多いので友達が多くできたり、集団生活になじみながら自立心が育めたり……、大人数ならではの学びができる良さがあると思います。

 

それに対して小規模な保育園では人数が少ない分、子どもたち1人1人と向き合いながらの保育ができる良さがあると思います。

 

私は、以前は大規模な保育園で働いていて大人数ならではの良さを感じながらも、『こうしてあげたかったのにできなかった』『もっとこうしてあげたかった』と思うことも多かったので、小規模な保育園ならまた違った保育の仕方ができるのかなと思ったんです」

 

 

 

 

そこで出会ったのが「ちいさな木」でした。北上市村崎野にある「ちいさな木」は、グループホーム「おおきな木」に併設された小規模保育園で、子どもから高齢者まで多世代が暮らし、ご近所さんも気軽に訪れることができる昔の大家族の家のような空間をめざして2019年4月にオープンしました。

 

以来、「ちいさな木」では「おおきな木」で暮らす利用者さんとも交流しながら、0~2歳の子どもたち14名(2025年9月現在)がゆったりとしたアットホームな空間でのびのび過ごしています。

 

 

▲グループホーム「おおきな木」とスロープでつながっているため、おじいちゃんおばあちゃんとの交流も気軽。写真はサツマイモの苗植えを一緒に行った様子。

 

 

そのコンセプトに惹かれた倉本さんは、「ここでもう1度挑戦してみよう!」と決意し働き出しますが、現在2年目を迎え、自分の中で変化を実感しているそう。それは……。

 

 

 

 

「任せて良かった」と思ってもらえる保育士へ。

 

「以前は自分の中で余裕がなくなると、『ああしてね』『こうしてね』と子どもたちに指示してしまうことがありました。それは保育を学んだ学校でも良くないことだと教えられてはいたのですが、時間や仕事に追われたりすると、そうなってしまう自分がいて悩むことも多くありました。

 

でも今は子どもたちに声を掛けるときも、自分の中できちんと整理して言葉を選んで声を掛けたり、『こうしてみたらどうかな?』という感じで子どもたちにも考える機会をつくったり、ちょっと『待つ時間』をつくってその子のペースに合わせて自分から動き出せるように見守ったり……。そういう保育の仕方も意識してできるようになりました」

 

すると、子どもたちにも変化が……。

 

「以前は『先生は忙しそう』だと気を遣わせていたのか、子どもたちが楽しく遊んでいるときに『一緒に遊ぼう』と誘われたり、何かをするときに困ったことがあっても『これ、どうすればいい?』と聞きに来たりすることは少なかったんです。

 

でも今は、楽しく遊んでいるときに『先生も一緒に遊ぼう』と誘ってくれたり、困ったときは私のところに『どうすればいい?』という感じで気軽に聞きに来てくれたり、『先生大好き』と言ってくれたり(笑)  そういうことが増えました」

 

 

▲七夕まつりにて。

 

 

そう笑顔で語ってくれた倉本さんは、保育園で一緒に働く先輩たちからたくさんの刺激を受けています。

 

「みなさん経験が豊富で、子どもたちが何かをやるときにちょっとつまずいても、それに対して『次はこうやって動き出すと思うから、ちょっと様子を見てみよう』とか、そういう眼差しで子どもたちの成長を見守れる心のゆとりがあって、いつもすごいなと思っています」

 

 

▲誕生日会にて。みんなで、はいチーズ!

 

 

そんな倉本さんに、どんな保育士が目標かと尋ねると……。

 

「保育士はお母さんの次、家族の次に子どもと長く一緒にいる存在なので、そばにいて安心できる人でありたいですし、お家の人と離れるのは寂しいけど『涼(すず)先生が待っていてくれるなら行ってみたい。楽しみだな』と子どもたちに思ってもらえたらうれしいですね。

 

やっぱりお家の人にとっても、本当は子どもと一緒にいたいはずなのに、他人に預けなければいけないなかで、信用して預けていただいているので、お家の人が一緒に過ごせなかった時間を『この先生に任せて良かった』と思ってもらえるような保育士になりたいですね」

 

「おはようございま~す」という先生の温かな声に迎えられてバスに乗り、「行ってきま~す」という先生の元気な声に合わせてお母さんに手を振る……。保育士に憧れた倉本さんの原体験は、目標とする保育士の姿でもありました。

 

大規模保育園の良さと小規模保育園の良さを掛け合わせて、自分が理想とする保育士へ。1人1人の子どもと向き合う倉本さんの日々は続きます。

 

 

 

 

倉本 涼さんが働く保育園:

ほいくえん ちいさな木のホームページはこちら

 

 

岩手県北上市村崎野20-64-3

Tel/0197-62-3317