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【市民ライター投稿記事】【Share books with your baby!】〜ブックスタート〜

2024年6月24日

市民ライター 赤平 恵里

早速ですが、皆さんは「ブックスタート」って聞いたことありますか?

 

小さなお子様のいらっしゃる方は既にご存知かと思いますが、初めて聞いたと言う方も意外と多いのではないでしょうか?

 

今回はその「ブックスタート」とそれに関連した本についてのお話。関心のある方もそうでない方も、是非最後までお付き合いくださいね。

 

「ブックスタート」とは、各自治体において行政と市民ボランティアが協働し、0歳児健診などの機会に、「絵本」と「読み語り(読み聞かせ)の体験」をセットでプレゼントする事業のこと。

※「読み聞かせ」という言葉が一般的なのですが、個人的に「読み語り」という表現のほうが好きなので以下そのように記載します。

 

 

▲会場では、オリジナルトートバッグに絵本と子育てに関する地域の資料などを組み合わせた、ブックスタート・パックが配布されます。

 

 

そもそもこの事業がいつ、どこで、誰によって、どんなきっかけで始まったのか?そのルーツをご存知でしょうか?

 

折角ですし、今回はその辺りから紐解いてお話します。

 

今や、日本でも広く知られている「ブックスタート」。始まりはイギリスとされており、発案者は絵本コンサルタントをされていた「Wendy Cooling(ウェンディ・クーリング)」さんという女性。絵本の存在を知らない5歳の男の子との出会いがきっかけだったそうです。

 

クーリングさんが、保健師さんのアドバイスを受けつつ、イギリス・バーミンガムの乳幼児健診でこの取り組みをスタートさせたのが1992年のこと。

 

当時の事業のキャッチフレーズは、“ Share books with your baby! ”。赤ちゃんにとっての絵本は、読む(read books)ものではなく、読み手と共に楽しむ(share books)ものだというコンセプトは、多くの人の共感を呼び、活動はイギリス全土に広がったようです。

 

 

日本で初めてこの活動が紹介されたのは、その8年後の2000年「子ども読書年」の時。その翌年、2001年には全国12自治体で開始され、徐々に拡大、浸透していきました。2024年現在、全国約6割の自治体で行われています。イギリスと同様、乳幼児健診時に実施されるケースがほとんどです。乳幼児健診は全ての赤ちゃんが対象であり、本に関心の薄いご家庭や外国人居住者等ももちろん含まれるため、そういった方々にも本に触れてもらうきっかけ作りの場として最適と言えます。

 

クーリングさんは、2016年に来日講演を行っており、その時の記録や対談がNPOブックスタート編『すべての赤ちゃんに絵本を』という冊子にまとめられています。

NPOブックスタート(外部リンク) ※『すべての赤ちゃんに絵本を』(外部リンク)

 

来日から4年後、2020年に亡くなられていますが、子どもたちと本の初めての出会いを確かなものにした、その精神は世界中の自治体、活動を支える市民ボランティアさんなどによって引き継がれ、現在までずっと続いています。

 

 

北上市でも、2015年からこのブックスタート事業が行われており、赤ちゃんたちが初めて絵本に触れる貴重な機会となっています。

 

ただ、皆さんご承知の通り、2019年からの新型コロナウイルス感染症により、絵本の読み語りは自粛・中止(配布のみ)となっていた時期がありましたが、昨年2023年10月から本格的に再開。毎月、北上市保健・子育て支援複合施設・hoKko内(2階)こどもけんしんルームで行われている「4か月健診」と並行して実施され、現在はわたしを含め8名の市民ボランティアが、本の配布と読み語りをセットで行っています。

 

 

▲各回2〜3人体制で予めスケジュール調整を行っており、それぞれ自分の都合のよい時に参加しています。

 

 

▲当日は、健診受付開始時刻の30分前には現地に集合し、人数分のセットを机に並べたりエプロンをつけたり、赤ちゃんと親御さんを迎える準備をします。

 

 

▲北上市のブックスタートで現在、主に配布されている絵本。ご存知の方も多いはず!

 

 

▲上のお子さんをお持ちの方で、お配りした本が重複する際には、これらの中からお好きなものを一冊選んでいただきます。

 

 

受付が終わった親子から順に、問診や身体測定の待ち時間を利用して、全ての赤ちゃんに絵本が行き渡るよう配慮・確認しながら進めています。

 

大人と違って赤ちゃんたちはみんな天真爛漫。お腹がすいたり、眠くなったり、いつも上機嫌とは限りません。また、この健診会場を訪れるのは赤ちゃんたちだけではありません。乳幼児健診は3歳6か月までありますし、その年齢になると、元気いっぱいの子どもたちはなかなかおとなしく待っていてはくれないですよね。

 

そんな時にも絵本はとても有効なんです。

 

 

▲2~3歳向けのおすすめ絵本が置かれています。本棚は自動車文庫「ともしび号」運転手さんによるお手製。普段の仕事の合間を縫って、約10時間かけて製作されたそうです。

 

 

ここにはおもちゃや、遊び道具などは一切ありません。市の職員さん曰く、ここに来ると大勢の子どもたちが本棚を目指して駆け寄ってくるそうで、受診される方の約9割が絵本を手に取り、自然と読み語りが始まるんだそうです。

 

「おうちではあまり本に触れていないけれど、ここに来ると読んで!って言われるんだよね〜」とおっしゃる親御さんも多いんだとか。

 

 

▲こんな小型の可動式本棚もあり、こちらには赤ちゃん向けのおすすめ絵本が置かれています。

 

 

▲この日(R6年5月28日取材)の4か月健診では、全9組の親子に絵本の配布と読み語りを行いました

 

 

「2〜3歳なら分かるけれど、まだ物心もつかない赤ちゃんに絵本を読んであげたところで、何か反応あるの?」

そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん知覚、感覚もまだまだ未成熟ですし、本のストーリーや内容などはわからない月齢。特段大きなリアクションや反応を示してくれるわけではありません。でも赤ちゃんたちは私たち大人が思っている以上に、目の前にある「色」「形」などの変化に敏感ですし、聞こえてくる音もしっかりと聞き分けていることが伝わってきます。

 

 

▲実際に読み語りをしながら、赤ちゃんたちの目の動きや表情を見ていると、絵本の絵に合わせて視点が下から上に動いていくのがよくわかりますし、中には手足をバタバタ動かして喜んでくれる赤ちゃんもいます。

 

 

読んでいる大人の声や周りの温かい雰囲気をちゃんと感じ取ってくれているんだと思うと、読み手側であるこちらも不思議と優しい穏やかな気持ちになれるんですよね〜。

 

もしかしたら、わたし自身が無意識のうちに心の安定や癒しを求め、こういった活動に従事しているのかもしれません。また、それはわたしに限ったことではないようで、ボランティアさんたちのほとんどがこのブックスタートのみならず、他にも子どもや本に関する様々な事業や取り組みに参画されており、

 

「今日は小学校で本を読んできたよ〜。◯◯って本なんだけど知ってる?」

「今度のおはなし会、選書で迷ってるんだけどこんなのはどうかしら?」

「孫がね、本は読んでもらうものだと思っているみたいで…(笑)まだわたしのお膝に座ってお話聞くのよ〜。もう高学年なのに~(笑)」

と、こんな調子で話のネタが尽きずいつも和やかムード。お互いの情報交換の場にもなっています。また、ご自身も本が好きで図書館にも足繫く通う読書家の方ばかりなんです。

 

 

▲日本ブックスタートのロゴマーク(写真右下)「ラッコの親子」。絵本画家・黒井健さんによるデザイン。「海の上でゆらゆらと、おなかの上で赤ちゃんを育てるラッコのように、すべての親子が抱っこのあたたかさの中で、楽しい絵本の時間を過ごして欲しい」。そんな願いが込められているんだそう。

 

 

話が少し脇道にそれますが、読書や音読が人の脳に癒しの効果をもたらすことは、科学的にも証明されています。

 

英・サセックス大学が2009年に発表した実験結果では、読書や音読にはストレスを68%も軽減する効果が認められたそうです!これはコーヒーを飲むことや音楽鑑賞等のストレス解消法を上回る数値なのだそう。読書のストレス軽減効果は「ビブリアセラピー(読書療法)」としても実用化されており、自分の状態に適した本を読むことで、意識や行動をプラスの方向に変えたり苦痛を減らしたりする等の効果も期待できるんだとか。

 

今は共働き家庭も多く、「ストレス社会」と言われていますが、自ら本を読んだり子どもに読んであげたりすることで仕事や日常的なストレスが少しでも解消できるならまさに良いこと尽くしですよね〜。

 

 

▲ブックスタートでお配りした絵本を、早速お子さんに読んであげているパパさん発見!

 

 

ママさんだけでなく、普段は仕事でお忙しいパパさん方も是非一度試してみてはいかがでしょうか?お子さんに良い刺激になるのは勿論ですが、ご自身のストレス軽減+パフォーマンス力アップ効果が期待できるかもしれません。

 

 

それに例えば、公立図書館を利用すれば費用はかからず、経済的!一日5分でもいいからそういった時間を作ることにより、「心を整える」のもありだと思います!

 

 

▲北上市立中央図書館の絵本コーナー。年齢、月齢ごとにおすすめ本が配架され、内容も充実しています。こちらは、0歳〜2歳児向けの本。こんなに沢山揃えられています。

 

 

「読み語りに興味はあるけれど、どんな本を選んだら良いかわからない」

「今の月齢にベストな本はどれ?」

そんな風に思っていらっしゃる親御さん、ぜひ一度図書館へ足を運んでみてください。読み語りはすぐにでも始められますし、お気に入りの一冊がきっと見つかると思います。

 

たくさんの赤ちゃんたちが絵本に触れる、はじめの一歩「ブックスタート」。今後も楽しんで続けていきたいと思います。

 

 

【取材協力】

◆北上市こども家庭センター

◆北上市立中央図書館

◆北上市ブックスタートボランティアの皆さま

 

【出典】

※参考サイト

NPOブックスタート

ブックスタート事業とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

Wikipediaブックスタート

 

※参考書籍、文献

◆心と体がラクになる読書セラピー  寺田真理子 《Discover社》

◆絵本と子どもとその未来  子どもと本~図書館と育む地域子育てコミュニティ~《岩手県立大学地域政策研究センター・北上市立中央図書館協働研究実績報告》