暮らす・遊ぶ/まちのインタビュー

北藤根鬼剣舞 庭元 伊藤 大輝さん

北上市に受け継がれる鬼剣舞の一つ「北藤根鬼剣舞」は、2018年で100周年を迎えました。一時は後継者不足のため存続が危ぶまれましたが、現在4代目庭元を務める伊藤大輝さんと若い世代が16年前に再興。たった3人の踊り手からはじまり、今や30人近くが活動する団体に復活しました。地域の枠にとらわれない伝承活動は、北藤根地区を代表する宝物として次の世代へと継がれています。

  • 北藤根鬼剣舞 練習風景1
  • 北藤根鬼剣舞 練習風景2
  • 北藤根鬼剣舞 練習風景3
  • 北藤根鬼剣舞 練習風景4
  • 北藤根鬼剣舞 練習風景5
  • 北藤根鬼剣舞 練習風景6
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後輩たちの想いを受けて、復活へ。

親父が北藤根鬼剣舞の保存会長をやっていたので、自分も小学校に入る頃から自然に踊るようになりました。子供会の活動として地域の皆が参加し、活動も盛んな時代でしたね。 中高生になると、そういう地域活動が嫌になって……。20歳を過ぎて再び関わり出した頃は、組織として揺らぎはじめていました。鬼剣舞は、踊り手8人、太鼓1人、手平鐘1人、笛は最低限2人で構成するのが基本。でも、当時の庭元が亡くなった後、役割の継承がうまくいかず、メンバーは踊り手3人のみでした。そんな頃、若手から「もう一度きちんとやりたい」と強い思いを伝えられ、皆で再興に向けて動き出しました。無くなりそうなものを復活させるのは本当に大変で。メンバーも根っからの北藤根住民は少なく、ほとんど素人からのスタートです。

鬼剣舞は、北上市周辺に伝わる伝統芸能。北上市内の踊り組は13団体があって、踊りや演目もそれぞれ個性があります。北藤根鬼剣舞は岩崎鬼剣舞から枝分かれしたもので、勇壮で優雅な踊り方が特徴です。鬼は仏の化身。邪気を払い鎮魂を願う踊りなので、お盆の8月15日は、供養塔の前で踊るのが昔ながらの季節行事です。

伊藤 大輝さんの画像
伊藤 大輝さんの画像

受け継いできた歴史はありますが、再びきちんと一から作り上げる思いで、宗家の岩崎鬼剣舞に改めて作法や由来を指導してもらいました。踊り手だけじゃなく、笛や鐘なども身近な人を誘って少しずつ増やして、今は20~30代を中心に30人近くで活動しています。女性の踊り手もいるし、地元だけでなく北上市内や市外から通ってくる人もいます。 最年少は3歳! 将来が楽しみですよ。

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北藤根鬼剣舞 練習風景

鬼剣舞は、自分にとって
無くなったら困るもの。

鬼剣舞の「面」をつけると、まるで自分が変身したかのようにスイッチが入るんです。
踊り手の中でも、白面をつけるリーダーは一人加護という勇者の喜びの踊りと言われる演目もあり、五穀豊穣、悪魔退散などの祈りを込めて舞い、技や経験が必要なポジション。皆、そこに憧れてがんばっています。若手は軽やか、年齢を重ねれば風格にあふれて、世代ごとに踊りも違います。だから面白いんですよ。 地域行事や芸能まつりなど年間30回近く演舞の場があるので、見ていただくときは、ぜひ踊り手個々の違いも注目して欲しいです。私は今、お囃子の太鼓に回り若手を育てる立場。次の代に受け継ぐまで一生続けていこうと思っています。

あなたにとって北上はどんなまちですか?

元気なまちです。鬼剣舞に携わっている人は、ほかの団体も含めて若い人がたくさんいます。これほど地域の伝統芸能に若い世代が関わるのは珍しいんじゃないのかなあ。鬼剣舞をきっかけに北藤根地区も元気になったし、市外との交流やPRに役立っています。

イラスト
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100年先に残す踊りを、
変えずに伝えていく。

再興当初は壁があったけど、続けてきたことで若い人たちが運動会などの地域行事にもどんどん出てくるようになり、地元も元気になってきました。日頃から鬼剣舞の「飲みニケーション」をしてるおかげで顔見知りも増え、参加しやすいのかもしれません。
物事を伝承していく限り、低迷の波や組織の危機が来るのは当然のこと。だからこそ、日々雰囲気づくりを心がけています。技の習得は厳しいけれど、その先に楽しさがないと続けていけないんです。今年は100周年の節目。私たちは教わったことを、変えずに伝えていくだけです。人から人へ繋いできた踊りに込められた「祈りの念」。 見てくれる方に、何かが響いてくれたらそれでいいと思っています。

北藤根鬼剣舞